SNKとゲームクリエイターの原田勝弘氏は新スタジオ「VS Studio SNK」(以下、VSスタジオ)を設立したと発表した。代表は原田氏が務め、SNKは同スタジオの支援をおこなうことになる。

原田氏は、3D対戦格闘ゲーム『鉄拳』シリーズを手がけた、ゲーム開発者だ。31年間に渡ってシリーズ開発を担当し、1997年発売の『鉄拳3』ではメインディレクターを担当。クリエイターとしてだけでなく、プロデューサーやマーケター、Esportsなども担ってきた。そのほか『ソウルキャリバーIV』などでディレクターを務め、『サマーレッスン』や『Shadow Labyrinth』でプロデューサーを担当するなど、数々のタイトルに携わってきている。

原田勝弘氏

そんな同氏は2025年末、ナムコの時代より長らく在籍していたバンダイナムコを退職。退職にあたっては、『鉄拳』シリーズが30周年を迎えることや、私生活/仕事における友人/先輩の別れの積み重ねによって、「開発者として残された時間」について考え、決断に至ったと述べていた(関連記事)。

今回、そんな原田氏がSNKの支援を受け、VSスタジオを設立。これに伴い、原田氏に加え、ともに長きにわたり『鉄拳』シリーズを支えてきた米盛祐一氏、SNKジャパンスタジオ統括本部にて、『餓狼伝説 City of the Wolves』のチーフプロデューサーなどを務める小田泰之氏との合同インタビューの場が設けられた。本稿ではその様子をお届けする。

左から、小田泰之氏、原田勝弘氏、米盛祐一氏

きっかけは「昔からの縁」

――新スタジオの概要を教えてください。

原田勝弘氏(以下、原田氏):
名前はVS Studio SNKで、通称VSスタジオですね。「VS」にはいろんな意味があり、まず一般の方は真っ先に「バーサス」を想像されるかなと思います。

もちろん「バーサス」だと思ってもらってもいいです。ただ僕と米盛は、もともと開発者としてのルーツが「VS開発部」にありまして、そのVSはビデオゲームソフト(Video Soft)開発部の省略だった。そこで生まれたのが僕らの前職で手がけた対戦タイトルですね。そのほか太鼓を叩くタイトルや昔のナムコを代表するタイトルの多くもVS開発部生まれです。

そんな伝統的な部署をルーツに「VS」と名付けた面もあります。ほかにもたとえばヴァンガードスピリット(Vanguard Spirits)みたいな、いろんな略称でいい言葉がある。開発者的にはVisual StudioもVSですし、いろいろな意味を込めたのがVSスタジオという名前です。

立ち位置としては、あまり細かいことまでは言えないですが、ざっくり言うとSNKさんの一部署ではなく、完全に独立したスタジオです。じゃあ100%子会社かというとそうでもない。独立性は保った状態でありつつ、SNKさんの傘下にある、グループの一員というかたちです。

――新スタジオの体制や環境について現状話せる範囲でお聞かせください。

原田氏:
新スタジオ自体はこのビル(SNK リバーオフィス)に、ワンフロアのオフィスをドンと構えるかたちです。ただ実は現時点ではまだすべての手続きが終わっておらず、環境作りはまだまだこれから。出来立てほやほやです。規模感としては、僕が実現したいことを出来るくらいの規模となっています。

体制としては若いクリエイターに参加してほしいと思います。一方で、45歳以上のシニアと呼ばれるような層は、業界の宝だとも思っています。定年間近、というような人も集め、ベテランパワーと若さの組み合わせでいい作品が作れたらいいな、と構想しています。

また環境面では、SNKさんの資産を借りることもあると思います。新スタジオはゼロからの構築になりますが、せっかく同じ場所になったので、基礎の部分をお借りして、こちらからはナレッジを提供する、というようなことも考えられます。

――原田さん自身は今後、プロジェクトにどのように関わっていく予定でしょうか。

原田氏:
もちろん立場上代表取締役としての関与になります。ただ、当然クリエイティブの方にしっかり軸足をおいて、「作っていく」ことをもう一度ちゃんとやりたい。原点に帰るかたちで、ここ10 年よりはさらにクリエイティブな、開発寄りに戻ることになりそうです。

――今回原田さんがSNKのもとで新スタジオを設立し、活動することになったきっかけを教えてください。

原田氏:
経緯としては、僕が前職(バンダイナムコ)を辞め、どうしようかなと思っていたところに、SNKさんからオファーをいただいたかたちです。ありがたいことに各所からオファーはありました。ただ今回SNKさんからスタジオ設立の話があり、SNKさんのビジョンなどを伺ったときに、自分のビジョンと合致するなと思い、前向きに考え始めました。

それに小田さんとは以前から親交もあり、仕事上でも絡みがありました。たまたま世代的にもほぼ一緒で、スタジオ設立とは別に、ずっといろんな話をする機会もありました。「将来何か一緒にできたら面白いね」みたいな漠然とした話もしていたので、「ご縁がありそうだな」と。

SNKとのシナジーを活かしたい

――新スタジオ設立前には、SNKにどういった印象を抱いていましたか。

原田氏:
個人的にSNKさんのタイトルの大ファンで、この業界に入る前にNEOGEOが出てきた時の印象が強いです。あとは僕が業界に入った後もNEOGEOでの印象が強かった。前職でもコラボさせていただいたりしたぐらいなので、「SNKのIPが好きないちファン」と同じような感覚です。

――SNKだからこそできること、そしてSNKブランドの強みをどう分析されていますか。

原田氏:
SNKさんとはかなり相性がいいと思っています。またお互いにナレッジや経験を交換できそう、というのは感じています。似たようなジャンルの作品を手がけているように見えても、ナレッジとしては実は全然違っていたりするので、そこを“シナジー”として活かせるのではないかと期待しています。多分小田さんも期待してくださっていると思うので、そういうシナジーをうまく世の中に押し出したいですね。

――『鉄拳』を世界有数の人気タイトルに導いた経験が、SNKでどのようなシナジーを生むと予測されていますでしょうか。

原田氏:
『鉄拳』はたくさんの人にお世話になった結果、人気を博しました。だから僕1人が「こうすればうまくいく」と方法論を伝える、というのはおこがましい話かなと。

とはいっても、勘所といいますか、「ここはこうじゃないか」という気づきはある。そんな「心の中の宝」は一緒に共有していきたいですし、逆に僕は小田さんからもいろんな話を聞きたいと思っています。

ただそうしたノウハウ/ナレッジよりも、好奇心とか「こうなったら面白い」という気持ちの方が重要だったりします。こういうワクワク感は、この年齢になるとなかなか出てこない。それがとても重要で、(方法論の共有よりも)そっちの方が新スタジオを設立した意味合いとしては大きいです。

――『餓狼伝説』や『THE KING OF FIGHTERS』、『サムライスピリッツ』など、SNKにおける既存 IP には関与するのでしょうか。また現在発売中、あるいは立ち上げ中のプロジェクトに、今後原田さんが関わっていくことはあるのでしょうか。

原田氏:
あるんですかね?

小田氏:
確かに。やります?

一同:
(笑)

原田氏:
どうですかね。SNKさんのIPにはいっぱい好きなものがあり、あれこれやってみたいはあるんですけど。SNKさんのIPなのであんまり勝手なことは言えないです。ちなみに今は本当に特定のタイトルに関わる、といったことは決まっていなくて。昔から雑談レベルでは盛り上がるんですが。

小田氏:
そうですね。原田さんは素晴らしいキャリアをお持ちの方なので、おそらくさまざまなとこから多種多様な要望が来ていたと思いますし、これからも来ると思います。ただそれを全部聞くわけにはいかないので、それをうまく整理し、サポートしていく、というのはSNKでできたらいいなと思っています。

原田氏:
もし今が90年代だったら気軽に手を出したんでしょうけど。今の時代は開発始めると平気で4、5年はかかる時代なので、簡単にやりたいとは言えないですね。

――原田さん自身は、今後どんなゲームを作っていきたいですか。

原田氏:
実は僕はプロデュースという意味ではVRタイトルとか、いろんなジャンルのゲームを手がけているんですよ。とはいえ得手不得手、それに市場から、そしてSNKさんから期待されることは必ずある。そういう意味では、「人と対戦するもの」は欠かせないと思うし、自分自身としても追求していきたい分野ですね。

――(小田泰之氏に対し)今回はSNKの協力のもと、原田さんの新スタジオが設立されましたが、今後日本国内のスタジオへの投資をおこなう予定はありますか。またその場合、判断基準はどのようになるのでしょうか。

小田泰之氏(以下、小田氏):
「投資」というと大層な言い方になりますが、規模とケースによるかなと思っています。原田さんによる新スタジオ設立では、SNK が協力させていただきましたが、特例に近いですかね。この規模のものが今後何度も続くかというと、それはないとは思います。

ただ今現在、SNKの中だけでもたくさんのプロジェクトが進んでいまして、それぞれの案件でかなり多くのスタジオと協力させていただいております。そうした協業の形は今後も継続していきます。

「やりたいこと」を形にするために

――原田さんが手がける作品を世界でヒットさせるための戦略があれば、お聞かせください。

原田氏:
僕や小田さんがちょうど開発者になったのが90年代。その年代は「いいゲームを作れば売れる」、ピュアな時代でもあったと思います。でも現代は、単にいいゲームというだけでは売れない。届け方、つまり“宣伝”のうまさみたいなものでも差はつく。だから今はこうやれば絶対売れると一概には語れなくなりました。

しかしゲームの中に芯が通ってないと売れない。なので90 年代とはまた違い、0から作り始めるならどうすればいいだろうか、という「再構築」をしたい。みんなで知恵を出しつつ、新しい体験ができるようなゲームできたらなと考えています。自分ひとりの力でやってきたわけではないですし、自分たちのノウハウだけで売れるわけでもないと思うので、SNKさんと一緒に模索したいです。

――原田さんは前職にて、SNS上での発信やストリーマーなどとの交流も積極的に行っておりましたが、そうしたコミュニティとの関わりは今後も続けるのでしょうか。

原田氏:
はい。コミュニティや市場にいる一般ユーザーの方の温度感は、データやレポートで見ればいいというものではないと考えています。

それにマジョリティの意見だけではなく、マイノリティの意見も、物を作る時のヒント/アイデアになることもある。手厳しい言葉も、刺激になることがあります。ですので、前職ほどの頻度になるかはわかりませんが、何らかの形でコミュニティとは接触していきたいですね。

――昨今のeスポーツ界や格闘ゲームシーンについてどのようにご覧になっていますか。

原田氏:
eスポーツシーンは、業界がシステマチックに生み出したわけではなく、タイトルについたファンが自発的に行ってきたものです。もちろん公式の大会/トーナメントも広く開催されていますが、やはり各国コミュニティが盛り上がった結果、スポーツのようになっていったという背景があると思います。

加えて20年前では考えられないぐらいの規模になり、「ここまで来たか」という感慨とともに、eスポーツ界にチャンスがたくさんあると思っています。ただ課題ももちろんいっぱいあります。それはコミュニティ側の課題というより、メーカー側の責任だったり、どういう風にコミュニティをサポートしていくかだったり。単に金銭面の問題だけではないので、課題にどういうアプローチができるのかは考えどころだと思います。

いずれにせよ、僕から見ると、業界というよりはコミュニティが大きくなったという風に見えている。どんなゲームを作るにしても、コミュニティの人たちと協力関係は構築していきたいです。

――前職(バンダイナムコ)退職の際に述べられていた、「開発者として残された時間」への想いを教えてください。また、クリエイターとしての最終目標は何でしょうか。

原田氏:
最終目標はまだ分からないんですけど、少なくとも退職でリセットしたい、やり直したいというわけではないです。積み重ねでしかできないことはたくさんあると思うので。

とはいえ、積み重ねたことによる自分の今の立場や、周りからの見え方、社会人としてのポジション・責任感があります。求められるものというのも仕事をやっていく上では発生する。それを、50歳を過ぎて「ちょっと仕切り直したい」って言ったところで、それは通じないですよね。

逆に言うと、今までの実績含め、その上にあぐらをかくのではなく、1回そうしたものを横に置く。そして精神的にも肉体的にもまだやれるなって時期に「これだけはやりたい」「こういうことを実現したい」という思いがやってきた。日本人男性の平均寿命が80ちょっとくらい。もう折り返しを過ぎていて(※)、今まで生きていた時間分生きられない、しかも健康寿命で考えるとさらに短い。そんなことをいろいろ考えました。それでスタジオ設立に繋がったかたちです。

※原田勝弘氏は50代半ば

――手がけるタイトルの規模について、AAA級やインディーをメインにするというような、特定の指針はありますか。

原田氏:
規模感を言うと金額感とかバレてしまうので、そこはちょっと言えないですね。

小田氏:
映画10本くらいっていうのはどうですか(笑)

原田氏:
それいいですね(笑)ジャンルとしては新しい。

そうですね、会社の理念としてはやはり「できるだけいいものを作ろう」と、規模は気にせず、ゲームの中身そのものに集中しようと思っています。そもそも規模の定義は難しい。単にお金をかければAAA級になるのかというのはあるし、最近インディーゲームでも有名な賞を獲得するなどしている。それを見ると、AAA級、インディーとか関係なく、作る人がどれだけ本気で、どれだけ好きでやっているかどうかがユーザーに伝わる時代なのかなと。僕もそこで勝負したいです。

――ちなみに、現在開発スタッフはすでに集まりつつあるのでしょうか。

原田氏:
ありがたいことに。たとえばここにいる米盛なんかは知る人ぞ知るという人です。(米盛氏とは)20年くらい一緒にやっていましたが、途中で別の道に行ったりもして。それが今回、また一緒に組めることになりました。

また僕がフリーになったタイミングで、先輩後輩関わらず声がけはたくさんしてもらったので、そんな仲間も集められたらなとは思っています。

――これからさらに人材/開発者を集めるにあたって、「こういう人が集まってきてほしい」というのがあればお教えください。

原田氏:
それだと、(インタビューに来た)メディアの方とか割と僕は向いていると思いますよ。開発者としての経験がないと思うかもしれないですけど。自分は過去に、ゲームセンターでがっつりゲームを遊んでいる人などをスカウトしたこともあります。そういう人はゲームに対する好奇心と情熱が衰えていない。そうした情熱はスキル以上に重要なものだと考えています。

年齢関係なく情熱が衰えてない人、たとえばいろいろなゲームの知識や、いろいろなゲームを遊んでいる、いろいろな開発者と話したことのある人は、実は開発者に向いているんじゃないかなと思います。そんな「ゲームへの好奇心と情熱」を持っている人をいっぱい集めたいです。

スキルという観点では、若くてパワーのある人たちとも当然、一緒にゲームを作っていきたい。一方で、ベテラン、特にシニア世代の方は、開発者として非常によいものを持っている。年齢を重ねると昔ほど馬力は出ないかもしれませんが、人間は丸くなっていくこともあり、より実のある会議ができるようになったりするのかなと。業界歴が長い人でも、情熱を失っていない人とぜひ一緒にゲームを作りたいです。

――ありがとうございました。

SNKのもとで動き始める原田氏の新スタジオ。設立したばかりということもあり、まだその全貌は詳細には明らかになっていないものの、いまだ原田氏の中に宿るゲーム開発への情熱をうかがい知ることができた。米盛氏のようなベテランも迎えつつ、若い力やSNKとの“シナジー”も生まれそうで、VSスタジオの今後の動向に注目したいところだ。

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