――夏といえば怪談,そしてホラーゲームの季節である。
ホラーやゾンビを題材としたゲームには数多くの名作や大作があり,そこで味わえる恐怖の形もさまざまだ。しかし一方で,長い時間をかけてアクションやシューティング,探索や成長を楽しんでいるうちに,いつの間にか怖さよりも爽快感や達成感のほうに引っ張られてしまうこともありがちだ。
そんなことを考えながらSteamストアを眺めていたら,ふと気がついてしまった。インディーを中心とした小規模制作のタイトルには,短い時間でもしっかりゾワッとできて,遊び終えたあとまで妙な感覚がまとわりつく作品が,この数年で近年でさらに“増殖”していることを……。
というわけで本稿では,日常をじわりと歪ませる作品や終末・ディストピアゲーム7タイトルを紹介したい。エアコンの効いた部屋で涼んでいるはずなのに,なぜか嫌な汗がじっとりとにじんでくる。そんな2026年夏のラインナップだ。
なお,「8番出口」のようにすでに広く知られた作品ではなく,直近にリリースされた比較的新しいタイトルを中心に選択した。さらに7タイトルに続いて,これから登場する気になる作品も少しだけ取り上げている。
それでは七不思議ならぬ七不穏,心の準備はいいだろうか。
今すぐゾワッとしたい人の“七不穏”
■稗: The Dream Of A Cockspur
開発:roccay / パブリッシング:PLAYISM
まずは1本目から容赦なくいこう。物語の舞台はとある孤島。人類のわずかな生き残りの中から編成された調査隊が,謎の天体が落ちた島に赴く,ポイント&クリック型アドベンチャーだ。
ゲームは謎の注射を打つ場面から始まり,主人公は「母」と一緒にこの任務に来たなどと語り出す(冗談ではなさそうだ)。もはや,嫌な予感などというレベルを超越している。
そして,ビジュアルもまたすんなり理解されることを拒むようなスタイルだ。シュルレアリスム絵画をドット絵風に装飾した画風と,クレイの質感が混在するアートワークは,美しくも“アウター”な気配がする。
タイトルのモチーフは聖書の「麦と稗」。本作の恐怖の芯は,初めからそこに示されている。しかしなにが現実で,幻覚で,そして心象風景なのかすら曖昧な作中では,そのコアな部分には容易にたどり着けないだろう。随行するセラピードッグ「ナンナン」だけがわずかな癒やしの要素だ。犬こそ正義。
プレイ時間は6時間〜10時間程度で,Steamでの評価は「非常に好評」。ゾワッとしつつ,よくわからないまま遊び終えるのもそれはそれで捨てがたいが,タイトルの意味が気になった方はこちらの記事もどうぞ。
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PLAYISMは,2026年7月22日に「稗: The Dream Of A Cockspur」を発売した。本作は,個人開発者のroccay氏が手掛けるポイント&クリック型のホラーアドベンチャーだ。本稿では基本的なゲーム内容を伝えるとともに,タイトルに織り込まれた“稗”の意味についても考察してみたい。
[2026/07/29 11:46]
■黒洞々|KOKUTOTO
開発 / パブリッシング:テンダゲームス
2本目は「黒洞々(こくとうとう)たる夜」に閉じ込められた男の物語。胸にぽっかりと空いた穴からは「尊厳」が絶え間なく溢れ出し,尽きれば即死。タイトルと設定を説明しているだけで,冷たく暗澹たる気持ちになれるアドベンチャーだ。
舞台は歌舞伎町を思わせる「東京辺獄一番街」。闇金,ヤクザ,配信者,怪しげな宗教家といった12人の奇妙な住人たちと会話を重ね,胸の穴を塞ぐべく「決断」を下していく。芥川龍之介の「羅生門」的といえば聞こえはいいが,要するにそこに立っているだけで尊厳がゴリゴリと削られていく。身に覚えがありすぎるというか,我々が生きる社会の写し絵のような気がしてならない。
どこか歪んだ住人たちの悪意を俯瞰して「嫌な奴らだな」と笑う。だが,主人公の思考もまた浅ましく,偏見に満ち満ちている。そんな構造をニヤニヤ分析している我々もまた,歪んだ優越感に浸る同類ではないのか……?
プレイを進めるほどに,自身のエゴイズムを突きつけられる「ガチ芥川」な作風が最高に意地が悪い。全13種のエンディングを見るたびに,泥沼の底がもう一段階深くなるような感覚を味わえる。
でも,終わったあとに残るこの感覚こそが「人間社会のリアル」なのかもしれない。
外には,ただ,黒洞々たる夜があるばかりである……。本作も紹介している記事があるので,もし興味があれば(こちら)からチェックしてほしい
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テンダゲームスが2026年1月30日にリリースした「黒洞々|KOKUTOTO」を紹介しよう。ビジュアルは歌舞伎町,精神的には「羅生門」をモデルにしたゲートをくぐり,「尊厳」を保ちながら,街から脱出を目指す主人公。その物語は,芥川龍之介やその作品群に対する,確かな愛を感じるものだった。
[2026/02/07 10:30]
■nophenia
開発 / パブリッシング:lane
ゴリっとした手触りのゲームが続いたので,ここらで狼っ子になってのんびり散歩を……なんてわけがないのは,もう理解されている頃合いかと思う。
本作はまた別のやり方でプレイヤーを揺さぶってくる。ストアページにも明記されているように「ゲーム」ではない。ローポリで描かれた剥き出しコンクリート構造や,夢のような謎の空間を歩くことができる。ただそれだけだ。
一応,座ったり,遠吠えしたり,写真を撮ることもできる。できるのだが,Steamレビューが1000件超で「圧倒的に好評」である理由の説明にはなっていない気がする。我々の住む世界はなんとも不思議で,不穏ではないか。
作者や,これを読んでいる読者の部屋に近いかもしれないロケーション
イベントらしいイベントもないし,物語にあたるものもおそらく存在しない。ただ,いわゆるリミナルスペース的な「ここにずっと居てはいけない」感じが,ジワジワとざわつかせてくれる。すぐには寝付けない真夏の夜,ベッドの中で起動するのにちょうどよさそう。
ただし,どこからが夢で,どこからが現実(ゲームだけど)だったか,記憶が曖昧になっても当方は関知しない。
どこかチョルノービリの廃墟を連想させる
■ご応募ありがとうございます
開発:IceLemonTea Studio / パブリッシング:IceLemonTea Studio,No More Robots
舞台は近未来のディストピア的な都市「空島市」。巨大企業・空島グループに仮採用されたジュニア面接官となり,応募者の学歴,履歴書,心理評価をチェック,合否を冷徹に判断していくお仕事シミュレーションだ。
書類偽造の看破程度はまだ序の口。電気ショックによる圧迫面接(思想強制?)も可能というあたり,空島グループの“社風”はお察しいただけるだろう。
しかも帰宅後は「家賃」「滞在費」「電気代」「社会保険料」,そして自身のメンタルケアに追われる暮らしが待っており,選別する役割のあなたすらも,社会の巨大なふるいにかけられ続けていることを思い知らされる。
効率至上主義,出身地による差別,職歴の空白。近未来SFの皮を被ってはいるが,描かれているのは現実世界の延長のようでもある。ブラックなユーモアに乾いた笑みが浮かぶが,一方で「笑っていていいのだろうか?」という疑問もよぎる。マルチエンディングなので,あなたなりの正しい“面接の答え”を探ってみてほしい。
■Dissolution of the Silent Union
開発 / パブリッシング:Umigame Studios
廃校になった高校,その終わりの日。閉じ込められた女子高生ヴェラが,「約束した」相手のもとに向かおうとする心理ビジュアルノベル。
打ちっぱなしコンクリートの冷たさ。リミナルスペース的なざわつき。アニメ調のキャラクター。売れ筋のコラージュそのものとも言えるビジュアルはそれでいて,誰しも見覚えがある学校を「見知らぬ場」へと変質させていく。
断片的かつ円環的な語りの中,二人の関係が静かに思い返される。明確な恐怖描写はないが,移動によって現在時刻がなぜか午前に戻ったり,約束の時間に近づいたりする語りは,ヴェラの逡巡や,その日の主観的な時間経過を表現しているのだろう。
日常の綻びがじわじわと拡大していくタイプの手触りで,読後にはなんとも言えない余韻から抜けられなくなる本作。飽きる前に終わるであろう短尺なのも,学び舎を離れて久しい,疲れた大人にはちょうどいいのかもしれない。Steamのレビューも「非常に好評」だ。
■終末ミジンコラボラトリー
開発:SKIPMORE,URARA-WORKS / パブリッシング:Flyhigh Works
お次は少し変化球。デスクトップの片隅に「置く終末」だ。人類絶滅後の世界で,アンドロイドの少女「リース」が微生物を研究する様子を眺める,放置系ゲームである。
クリックで研究を手伝い,設備をアップグレードし,あとは作業の合間に様子を見ればOK。……うん,なんなんだこの変な生き物は?
水槽の左下のほうに見たことがない生きものが……(左写真)。調べてみると,その名はクラミドモナス。2本のべん毛が嫌な感じだ(右写真)
本作の終末感は,レベルアップでリースの日記がオープンになる以外,ほとんど何も起こらないことにある。プレイヤーが何をしていようとお構いなしに,リースの営みは画面の隅で静かに続いていく。
この同居生活(?)で思い出した幼少期のできごとがある。それは卓上の小さな金魚鉢に入れた縁日の金魚だ。もちろんそんな環境で飼えるのはごく短い期間で……いや,結局は鉢をひっくり返して死なせたのだが。
さて,今日も社会の一ミジンコ,いや一員として,話をひっくり返される前に粛々と仕事を進めておきますか。
■ECHOES
開発 / パブリッシング:びご
ラストとなる7本目は,無料で遊べる短編アドベンチャー。ド直球の終末ものである。人類が機械との戦争に敗北し,黄昏時を迎えたと思われる世界。機械の兵士たちに追われ,意識を失った青年は,壊れかけのアンドロイドの少女に助けられる。
青年は,そのノイズ混じりの機械音声を少しずつ解読しながら5日間を過ごすことになる。
本作はドット絵も音楽もシナリオも自作という個人開発作品。プレイ時間は耳だけに頼った場合でも1時間強,勘のいい人なら30分もあればトゥルーエンドにたどり着けるだろう。エンディングは3種類あり,ひとつは作品の前提を覆してくるところも含めて,味わい深いものがあった。
何を言っているのか「理解って」しまう瞬間が唐突に訪れる
廃墟の中,静かな曲と機械音声を聞きつつ解読に取り組む時間は,ほどよく眠気をさそってくれる。リリースからまだ日は浅いが,レビューの好評率は100%(8月6日時点)。不穏さに誘われて遊んでみて,たまにはこんな後味が残るのもアリか。
親指を立てながら溶鉱炉に沈んだりはしないのでご安心
これから訪れる「終わりの予感」
ここからは,今はまだ遊べない“終わりの予感”について話をしよう。
まずはfuturala氏が手掛ける「CultureHouse」だ。ゆっくり崩壊に向かっていると思しき世界で,失踪した科学者のラボで奇妙な生物を培養する7日間のアドベンチャーだ。モダニズム建築の静けさの中,終末を自分の手で培養する体験とはいかなるものか。リリース日は未定だ。
Tebasaki Gamesが開発,G-MODEより発売予定の「コメンテーター」は,報道番組の生放送でスタンスを決めていくビジュアルノベル。あなたのコメントが世論を,ひいては社会の姿を左右する。スポンサー,視聴率,コメンテーターとしての保身──天秤にかけるべきものも生々しい。2026年中にSwitch/Steamで配信予定。
YORUROJI氏の「人のいない世界に」は,人類滅亡後に目覚めたロボットが,自ら電源を切るまでを描く約2時間のピクセルアート作品。「人がいない世界にロボットは要るのか?」という前提の冷たさが胸に刺さる。体験版が公開中で,2026年中のリリースを予定している。
最後は少々スケールが大きめの1本を。Paradark Studioが制作,505 Gamesがパブリッシュする「ExeKiller」は,大災害で砂漠化した地球を舞台としたセミオープンワールドゲーム。ブレードランナー風味な西部(?)で,巨大企業の賞金稼ぎとして終末の荒野を往く体験をいつ味わえるのか。気長に待ちたい。
なぜ我々は“不穏”や“終末”を求めてしまうのか
さて,さまざまなパターンの不穏なゲームを紹介してきたが,それらをテーマとしたゲームはもはやニッチなものではなくなっている。ジャンルが育ったから市場ができたのか,それとも現代を生きる我々の心がすでに“不穏”に支配されているのか,それは知る由もない。
ただ,ひとつ確かなことがある。作り手たちは,この閉塞した時代を素材として調理しているのに,受け手側は,それを冷房の効いた部屋で,どこか別の世界のこととして消費し続けている。しかも入口は不穏でありながら,どこか温かい雰囲気のなかで着地する物語も増えてきた……。
涼んで,ゾワッとして,また日常に戻る──。この奇妙なサイクルが,何食わぬ顔をして回り続けていること自体が,一番“不穏”なのかもしれない。そんな2026年の夏。気になった一本があれば,あなたもこのサイクルに加わってみてはいかがだろうか。
……などと誘っている時点で,筆者もすでにその一端を担ってしまっているのだけれど。









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