Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。
連載第9回となる本稿では、サークル「TetraScope」が手がける乙女ゲーム『私のリアルは充実しすぎている』を紹介。もとは2014年にフリー同人ゲームとしてリリースされた作品で、2022年にはフルボイス化&ヴィジュアルファンブックの内容を追加したSteam版やスマートフォン版が展開。2024年にはNintendo Switch向けに移植されるなど、長きに渡り愛されてきたタイトルだ。
公式では「顔良し、頭良し、性格良し。完全無欠のリア充女子が送るドタバタラブコメディ!(たぶん)」とされており、物語の主人公は高校2年生の姉崎希美。キャッチコピーどおり容姿端麗・成績も優秀で、性格も申し分なく、学校では生徒会副会長を務めるという、まさに周囲から見れば「完璧な人間」だ。だが彼女には誰にも知られていない一面があり、希美は乙女ゲームが大好きなオタクとして、学校で見せている姿からは想像しにくい趣味を持っている。

だが単純に「実はオタクでした」というギャップだけで笑わせるキャラクターではないのが、本作の面白い点だ。希美は学校で優等生として振る舞っている自分を、ただの嘘として切り離しているわけではない。周囲から期待される「きちんとした自分」を意識し、役割をこなしながら、家では好きな乙女ゲームに夢中になる。どちらか一方が本当の彼女で、もう一方が偽物という構図ではなく、両方の姿を含めて「姉崎希美」という人間が形作られている。「リア充」と「オタク」という分かりやすい二項対立を作るのではなく、他人に見せている自分と、自分だけが知っている自分との間にあるズレを、主人公自身の視点から描いていく描写が楽しい。
攻略対象は3人。主人公の義理の弟であり、生意気だが姉には逆らえない「姉崎隼」、突然同じクラスに転校してきた孤立気味の「倉口歩」、生徒会長の双子の弟で口も態度も悪い「星名穂積」だ。公式が「ツンデレ弟・根暗転校生・残念なイケメン」と紹介する通り個性豊かな面々だ。プレイヤーは希美の視点でストーリーを進めていくが、希美自身も本作のような「乙女ゲーム」で描かれる恋愛を知っている。つまりプレイヤーは、乙女ゲームの主人公を操作しながら、主人公自身が乙女ゲームで遊んでいるという、入れ子構造を体験することになる。当然メタ的な仕掛けだけを楽しむゲームではないが、希美が恋愛について考えるとき、フィクションのなかで見てきた恋愛や、「こういうときはこうなるはず」という知識が存在しており、現実の人間関係とゲームのなかの恋愛との違いが、主人公の性格や行動を描くためのファクターとして自然に機能している。

恋愛自体について考えさせられる場面も多く、ゲームであれば相手の好感度や選択肢によって関係が変化し、プレイヤーにはある程度「何をすれば相手との距離が縮まるのか」が把握可能だ。だが現実では相手の気持ちが画面に表示されることはなく、自分の言葉がどう受け取られたのかも分からない。希美は乙女ゲームオタクだからこそ、リアルの恋愛に対してもゲーム的な感覚を持ち込んでしまうことがあり、そこから生まれるズレが彼女自身の悩みや葛藤にもつながっていく。
また本作における「本当の自分」というテーマは、恋愛だけに限定されたものではない。希美は周囲から見れば充実した高校生活を送り、友人にも恵まれ、学校では頼られる存在として振る舞っているが、「何も悩みもないリア充」として描かれているわけではない。むしろ周囲から見れば恵まれているからこそ、自分の悩みを人に話すことが難しくなるという感覚が、彼女の人物像にリアリティを与えている。そういった意味では、「私のリアルは充実しすぎている」というタイトルも、単に主人公がモテモテだから自虐で付けられたタイトルではないのだろう。

現実の生活が充実していることと、自分自身に悩みがないことは関係なく、現実が満たされている人間がフィクションを必要としないわけでもない。リアルが充実しているからこそフィクションが不要になるのではなく、現実の自分も趣味に没頭する自分のどちらも自分自身なのだ。こうした主人公の内面を丁寧に描きながら、作品自体は重くなりすぎず、ラブコメディとしてテンポよく進んでいくのも魅力だ。
『私のリアルは充実しすぎている』は、乙女ゲームを遊ぶ主人公をプレイヤーが操作するという構造を入口にしながら、他人から見える自分と自分だけが知っている自分の違い、好きなものを好きでいることを軽快なラブコメディのなかに落とし込んでいる。「自分が周囲からどう見られているのか」「本当の自分とは何なのか」という身近な題材からキャラクターを掘り下げながら、乙女ゲームというジャンルへの愛も感じる作品だ。
『私のリアルは充実しすぎている』は、PC(Steam/Windows)/Nintendo Switch/iOS/Android向けに配信中。
