説明会の会場となったワルシャワ市の起業家支援施設「Centrum Przedsiębiorczości Smolna」

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 「ウィッチャー」シリーズや「サイバーパンク2077」,「This War of Mine」「Frostpunk」など,世界的なヒット作を数多く生み出してきたポーランド。同国にとってゲームは重要な輸出産業であると同時に,大事な文化のひとつでもある。

 2026年10月,ポーランド外務省などの協力による,日本と韓国のゲーム業界関係者を対象とした視察プログラムに参加し,同国を訪れた。

 10月20日にワルシャワで行われたゲーム産業に関する説明会では,「This War of Mine」「Frostpunk」シリーズなどを手がける11 bit studiosのDamian Jaśkowski氏が登壇。ポーランドのゲーム産業の海外展開や,ゲームが果たす文化的・社会的役割について講演を行った。

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 「ウィッチャー」や「Frostpunk」などのヒット作を生んだポーランド。その首都ワルシャワは,ゲーム産業従事者の数で欧州有数の開発拠点となっている。企業と人材を呼び込む都市政策,試作から海外展開までを支える公的制度とは。現地の2つの講演からその取り組みを紹介する。

[2026/10/25 10:41]

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[2025/08/26 07:00]

ポーランドにとってのゲームは,日本のアニメや韓国のK-POPにあたる存在

 Jaśkowski氏は11 bit studiosで東アジア市場のPRを担当するとともに,ポーランドのゲーム産業の海外展開を支援するIndie Games Polandでも活動している。かつては北京のポーランド文化機関に勤務しており,ゲームを通じた国際交流にも長く関わってきた人物だ。

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 Jaśkowski氏は講演の冒頭,ポーランドにとってのゲームは,日本のアニメや漫画,韓国のドラマやK-POPにあたる存在だと話し,ゲーム産業がポーランドにもたらす経済的な影響について説明した。

 ポーランドは国内のゲーム市場がそれほど大きくないこともあり,海外への展開を前提としてゲーム産業を成長させてきた。ポーランド企業開発庁が発行した「The Game Industry of Poland 2025」によれば,同国で開発されたゲームの約97%が海外市場で販売されているという。

 主要な市場として挙げられたのは,アメリカや中国,日本,ドイツ,イギリス,韓国など。国によってゲームの好みや販売環境は異なるため,現地の市場を理解し,適切なパートナーを見つけることが重要になる。

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 もちろん,海外で成功しているのは「ウィッチャー」や「サイバーパンク2077」のような大規模タイトルだけではない。独創的な作品を開発する中小規模のスタジオも数多く存在しており,こうした開発者にとっても海外展開は重要な課題となっている。

 そこで役割を果たしているのが,Indie Games Polandのような業界団体と,ポーランドの公的機関による支援だ。
 同団体は,ポーランドのゲーム開発者が海外のイベントに出展する際の調整を行い,現地メディアやビジネスパートナーとの交流を支援している。

 実際に,アメリカのPAX WestやGDC,ドイツのgamescom,日本の東京ゲームショウなど,世界各地のイベントにポーランドのゲーム企業が参加している。こうしたイベントでは,複数のスタジオが集まるポーランド合同ブースを設けるほか,現地のメディアやパブリッシャとの交流会を開催することもある。

 Jaśkowski氏によれば,とくにアジアのように距離が離れた市場については,ポーランドの開発者が十分な知識やネットワークを持っていないことも多いという。そのため,現地の関係者と接点を作り,市場への理解を深めることも支援の大切な役割になっているという。

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企業と政府,それぞれの目的が重なるゲーム産業の海外展開

 興味深かったのは,民間企業と政府機関が協力する理由についての説明だ。

 ゲーム会社が海外展開を目指すのは,当然ながら売上を伸ばし,自社のゲームやブランドの知名度を高めるためである。一方,政府や公的機関の目的は,ポーランドという国の認知度やイメージを高め,産業の発展を通じて経済成長につなげることにある。

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 一見すると異なる目的に思えるが,Jaśkowski氏は,両者の目指す方向は実際には近いと説明する。
 企業が良いゲームを作り,海外で高く評価されれば,ポーランドのゲーム産業全体の評価も高まる。逆に,ポーランドが優れたゲームを生み出す国として認知されれば,個々のスタジオにとっても海外で活動しやすい環境が生まれる。

 ただし,その土台になるのは,あくまでもゲームそのものの品質だ。どれほど国を挙げて宣伝しても,良いゲームがなければ意味はない。まず優れた作品があり,その成功を政府や業界団体が後押しするという関係が重要なのだという。

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 また,こうした取り組みは売上だけでなく,人材の確保にもつながる。
 ポーランドのゲーム産業は成長する一方で,人材不足という課題も抱えている。海外から優秀な開発者を呼び込むためにも,ゲーム開発拠点としての国の知名度を高める必要があるのだ。

 その具体例として紹介されたのが,2025年にセルビアのベオグラードで開催されたゲームイベント「For the Win」への参加だった。この取り組みでは,現地のポーランド文化機関と協力し,ポーランドのゲーム会社の紹介だけでなく,ゲーム開発を学ぶ大学同士の交流も支援したという。

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 短期的な売上には直接つながらなくても,現地の学生がポーランドのゲーム産業を知る機会になる。そして,ポーランドで学んだ人材が自国に戻り,新たなスタジオを立ち上げることも考えられる。
 Jaśkowski氏は,企業と公的機関が対話と相互支援を通じて共通の目標を目指すことが,ポーランドのゲーム産業の強みのひとつだと説明していた。

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 こうした官民連携による文化発信の例として,2019年12月に中国の上海で開催された「Polish Games – Creative Poland: The Concert」も紹介された。
 このコンサートは,北京のポーランド文化機関が中心となり,ゲーム業界の団体や文化機関が協力して実現したものだ。「ウィッチャー3 ワイルドハント」「Frostpunk」をはじめとするポーランド製ゲームの楽曲を,オーケストラやポーランドの音楽家たちが演奏した。

 ゲームは社会的なメッセージを伝えたり,プレイヤーに問いを投げかけたりすることで,学びや議論のきっかけにもなる。Jaśkowski氏はこうした例を挙げながら,ゲームという表現媒体が持つ文化的・教育的な可能性を紹介した。

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ゲームは映画や文学と同じ「文化」である

 講演の後半では,ゲームが持つ文化的な価値についても話が及んだ。

 Jaśkowski氏は,ポーランドではゲームを映画や文学と同じ文化として捉えていると説明する。
 もちろん,すべてのゲームが芸術的な表現を目指す必要はない。純粋に娯楽として楽しむゲームがある一方で,作品を通じて社会的なテーマを描いたり,プレイヤーに何かを考えさせたりするゲームも存在するということだ。

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 ゲームを文化として発信する取り組みのひとつが,ルーマニアの首都ブカレストで開催された展覧会「The Art of the Game」だ。2025年11月から2026年3月にかけて開催されたこの展覧会では,ゲームを芸術や文化の一部として紹介。11 bit studiosも参加し,ゲームという表現媒体の可能性を伝えた。
 本イベントには現地のポーランド文化機関も協力しており,ゲームを文化として海外に紹介する活動のひとつになっている。

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 そうしたゲームの代表的な例として紹介されたのが,11 bit studiosが2014年に発売した「This War of Mine」。同作は,戦争を兵士ではなく民間人の視点から描いたサバイバルゲームである。プレイヤーは戦火に包まれた街で暮らす人々を操作し,食料や物資の不足に苦しみながら,生き延びるための選択を強いられる。
 戦争を題材にしたゲームは数多いが,本作で描かれるのは戦闘の勝敗ではなく,戦争によって日常を奪われた人々の生活だ。生き残るためには,ときに他人を犠牲にするような選択を迫られることもある。

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 そうした内容が評価され,2020年には当時のポーランド首相マテウシュ・モラヴィエツキ氏が,学校教育における教材として同作を採用する方針を発表。2022年にはポーランド教育・科学省によるゲームの教育活用プロジェクトが開始され,「This War of Mine」は授業で利用できる推奨教材のひとつとなった。

 教師は授業内容に応じて同作を活用でき,ポーランドの生徒や教師には教育目的で無料配布されている。戦争の悲惨さや,極限状態に置かれた人間の行動,倫理的な判断について考えるための教材として位置づけられているのだ。

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 Jaśkowski氏は,この作品が単なるゲーム以上の存在であることを誇りに思うと語っていた。
 ゲームが娯楽としてだけでなく,学びや議論のきっかけになる。こうした取り組みは,ポーランドがゲームを文化として捉えていることを示す例のひとつといえるだろう。

 さらに,同作を含むポーランドのゲームは,美術館や博物館でも取り上げられている。
 「This War of Mine」は,ニューヨーク近代美術館(MoMA)で2022年から2023年にかけて開催された「Never Alone: Video Games and Other Interactive Design」に出展されたほか,ゲームと戦争,あるいはデザインなどを扱う展示でも紹介されてきた。

 ゲームは単なる娯楽商品ではなく,美術館に収蔵され,展示される文化的な作品でもある。Jaśkowski氏はこうした例を挙げながら,ゲームという表現媒体が持つ可能性を紹介した。

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チャリティ活動や次世代の開発者支援にも広がる役割

 ゲーム産業の社会的な役割という点では,チャリティ活動も重要なテーマとして挙げられた。
 11 bit studiosは「This War of Mine」に関連する活動を通じて,Amnesty InternationalやWar Child,ウクライナ赤十字などを支援してきた。

 その具体的な取り組みのひとつが,2024年12月11日に発売された「This War of Mine」の10周年記念DLC「Forget Celebrations」だ。
 新たな物語を追加するこのDLCでは,11 bit studiosが得る収益をWar Child,Amnesty International,Liberty Ukraine Foundation,Indie Games Polandなどの支援に充てることが発表された。

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 Jaśkowski氏は,ゲーム産業が大きな収益を生み出し,税金を納めることはもちろん重要だが,それだけでなく社会に対して果たすべき役割もあると話す。
 ゲームの発売から10年が経過しても,世界では戦争が続いている。同社はそうした現実を踏まえ,「This War of Mine」の10周年を単に祝うのではなく,あらためて戦争のなかで生きる人々に向けた支援につなげることを選んだのだ。

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 さらに,次世代のゲーム開発者を育てるための活動も行われている。
 その一例が,2026年10月8日から9日にかけてワルシャワで開催された「Student Games Festival 2026」だ。
 世界32か国から192作品の応募があり,最終選考には10か国から22作品が進出。開発者たちがワルシャワに集まり,作品を披露した。

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 会場となったのは,ワルシャワ中心部にある文化科学宮殿。11 bit studiosも同イベントを後援しており,政府やワルシャワ市など,さまざまな組織の協力により開催された。
 ゲームの展示だけでなく,講演やワークショップ,業界関係者との交流,ポートフォリオの相談なども行われたという。

 すでに成功したゲーム会社を支えるだけでなく,これからゲームを作る人々が学び,経験を積み,業界とのつながりを持つ機会を作る。これもポーランドのゲーム産業を支える取り組みのひとつなのだ。

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ポーランドのゲームの歴史を世界に伝える「Digital Dreamers」

 講演の最後には,ポーランドのゲーム産業の歴史を伝えるプロジェクト「Digital Dreamers」も紹介された。
 これは,1980年代の作品から現代のヒット作まで,ポーランドのゲーム開発の歩みを紹介する展示・アーカイブプロジェクトだ。展示パネルによる解説だけでなく,開発者へのインタビュー映像や,実際にゲームをプレイできる展示なども用意されている。

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 とくに重要なのが,ゲーム産業が発展してきた歴史を記録し,後世に残すという役割だ。
 初期のポーランドのゲーム開発者たちも年齢を重ねており,その経験や当時の状況を直接聞ける機会は限られてくる。プロジェクトでは,そうした開発者へのインタビューも映像として記録している。

 また,公式サイトではポーランドのゲーム開発史に関する資料や映像も公開されており,展示会場を訪れなくても同国のゲーム文化に触れられる。展示内容や規模は開催場所に応じて変更できるようになっており,世界各国でポーランドのゲームの歴史を紹介する取り組みが進められている。

 こうした活動も,個々のゲームの売上を伸ばすためだけのものではない。ポーランドという国がどのようなゲームを生み出し,どのような歴史を歩んできたのかを世界に伝える,文化発信の一環なのである。

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 今回の講演を通じて印象に残ったのは,ポーランドではゲームの経済的な成功と文化的な価値を切り離さずに捉えていることだ。
 優れたゲームが海外で売れることは,開発会社の成功であると同時に,ポーランドという国の評価を高めることにもつながる。そして,その成功を次世代の開発者支援や文化交流へと還元していく。

 もちろん,すべてのゲーム会社が社会的なメッセージを持つ作品を作る必要はないし,すべてのゲームが教育や芸術を目的とするものでもない。それでも,ゲームが娯楽として人々を楽しませるだけでなく,社会について考えるきっかけを作り,国や文化を結ぶ役割も果たせることは,こうした取り組みから伝わってくる。

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 なお後日,ワルシャワにある11 bit studiosのオフィスも訪問した。そこでは自社タイトルの開発方針やパブリッシング事業について,さらに踏み込んだ説明を受けた。
 こちらの訪問は守秘義務を伴うクローズドな内容を含むため,詳細を紹介することはできないが,同社のゲーム作りに対する考え方をより深く知る機会となった。その訪問で得た理解も,本稿で紹介した講演内容の受け止め方や解釈に少なからず反映されていると思う。

 ポーランドにとってゲームは,世界に向けて販売する商品であると同時に,自国の文化や価値観を伝える手段でもある。11 bit studiosの取り組みは,その両面をよく表しているように感じられた。

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