メタバースプラットフォーム「Roblox」は、毎日遊ぶユーザーが1億人近く存在する巨大なユーザーベースを抱えているが、日本ではまだ一般的に広く知られているとは言えない。
Robloxは、ユーザーが独自のオンラインゲームや体験を作成し共有できるプラットフォームであり、企業にとって新たなマーケティングチャネルとして注目され始めている。
2025年3月に開催されたGDC2025では、「ゲーム業界最大の秘密:Robloxを活用したヒットゲームの作り方」と題したパネルディスカッションが開催された。全米自動車競走協会(NASCAR)やサンリオアメリカ法人など、先進的な企業の担当者がRobloxのトップクリエイターらとともに登壇し、Robloxを活用したブランド体験の構築やファンエンゲージメントの戦略について語った。

このパネルディスカッションでは、各社のRobloxへの参入事例をもとに、企業が成功するために不可欠な要素が具体的に語られた。従来のコンテンツ開発やマーケティングツールとは異なるRobloxならではのポイントなどが明らかにされている。

消費者と繋がるために欠かせないチャネルに

Robloxが企業にとって魅力的なプラットフォームである理由は、その巨大なユーザーベースとエンゲージメントにある。登壇したNASCARとサンリオの担当者は、それぞれの取り組みと成果を語った。
NASCARでインタラクティブおよび新興プラットフォーム担当Vice Presidentを務めるニック・レンド氏は、「私の主な担当は、新興のインタラクティブなプラットフォームを通じてファンエンゲージメント体験を創出することです。ゲームからEスポーツ、Roblox、そしてFortniteまで、NASCARは進出しています」と述べた。
続けてレンド氏は、「ブランドがRobloxのようなプラットフォームを通じて消費者に繋がることは不可欠です。マーケティング戦略に統合される必要があります」と強調。「プラットフォームは驚異的なスピードで拡大しています。クリエイターも驚異的に拡大しており、プラットフォーム上のイノベーションも進んでいます」と、そのポテンシャルを語った。
一方、サンリオのアメリカ法人で北米担当SVP、ブランドマネジメントおよびマーケティングを担当するジル・コーク氏によれば、Robloxへの参入は3年前だったという。
サンリオが2022年にRobloxで初めて公開した体験「My Hello Kitty Cafe」は、「現在、訪問数は4億7000万回、評価は96%」という成功を収めている。コーク氏は、「ファンが訪れるのを楽しんでいることがすぐにわかりました。物理的な世界で私たちの製品に対してそうであるように、彼らは常に新しいものを求めています」と述べ、ユーザーの高いエンゲージメントと継続的なコンテンツ更新の重要性を示唆した。

参入戦略の変遷と学び:ブランドに適した体験の見つけ方

Robloxに参入する際、最初から最適な戦略を見つけるのは容易ではない。NASCARやサンリオの事例は、試行錯誤と学習を通じて、ブランドに合った体験へと進化させていくプロセスを示している。
NASCARのレンド氏は、Robloxへの参入経路を段階的に説明した。まず2022年に2人の開発者が運営する人気ゲーム「Jailbreak」とコラボし、プラットフォームについて学んだという。

翌2023年にはRobloxの人気ジャンルである「タイクーン」で作った独自のエクスペリエンス「NASCAR Tycoon」を公開。

その後、「タイクーンは楽しいけれど、やはりレーシングゲームに参加すべきだ」と発想を転換。最終的に開発スタジオVoldexと協力し、Voldexの人気レーシングゲーム「Driving Empire」とのコラボを決断。1年間の継続的なコラボと同ゲームの中に専用エリア「NASCAR World」をローンチするに至った。レンド氏は、「Roblox上で公開したすべてを、次に行うものに活かされました」と語り、何度も挑戦する中で段階的な学びが次の戦略決定に繋がっていることを強調した。

サンリオのコーク氏も、ユーザーの反応を見ながら戦略を調整してきたとのこと。「ファンが物理的な世界で私たちの製品に対してそうであるように、彼らは常に新しいものを求めています。そのため、カフェ内でほぼ毎週、新鮮なコンテンツや新しい体験を提供する必要があることをすぐに学びました」。この学びに基づき、「My Hello Kitty Cafe」では継続的なアップデートが行われています。さらに2025年には2つ目となる新たな体験「シナモロールクラウドランド」もローンチされた。

コーク氏はまた、「ファンは自己表現のためにプラットフォームを利用するという点で、Robloxで現実世界と同じことが起きることに気づきました。ファンたちは、カフェの装飾、服装、新しいキャラクターの導入など、私たちが展開するキャンペーンに毎回、興奮しています」と述べ、ユーザーが何を求めているかを理解し、それに応えることが重要であるとした。
両社の事例は、固定的な戦略に固執せず、ユーザーの反応やプラットフォームの特性に合わせて柔軟に戦略を進化させることの重要性を示唆している。

プラットフォームの強みを活かしたアジャイルな展開

Robloxプラットフォームの大きな利点の一つは、その開発・運用の機敏性(Agility)である。従来のゲーム開発サイクルと比較して、迅速な意思決定と展開が可能であり、これがブランドにとって大きな武器となり得る。
NASCARのレンド氏は、従来のゲーム開発における承認プロセスと比較し、Robloxのアジリティを強調した。「これまで40年間、色々な形でゲームでの展開を試して承認プロセスと戦ってきました。歴史的に初めてRobloxでは、Daytona 500(2月に行われる毎年のシーズンの開幕戦)の直前の週末にゲームをローンチすることができました。ピーク需要を最大限に活用できたのです」。このスピード感は、「Robloxでしかできないこと」であり、「機敏に対応し、迅速に学び、調整し、適用することができます」と、その価値を語った。
サンリオのコーク氏も同様の認識を示し、「年間を通じて特定のブランドモーメントがあります。開発者と協力し、そのタイミングを利用するために、かなり迅速に何かをローンチすることができています」と述べた。他のプラットフォームでは多くの手続きが必要になる場合でも、Robloxでは「変化に対して迅速に対応して、プラットフォームに反映できるRobloxの特長は、私たちとファンの関係とって非常に重要です」とした。

このアジリティを支えるのが、Robloxが提供する分析ツールと、それに基づいたライブオプス(LiveOps)の実践だ。開発スタジオTwin Atlasのシニアプロダクトデベロップメントであるケイシ・セイラリ氏は、「Robloxにとって非常にクリエイティブなのは、分析ダッシュボードです」と述べ、「運営について考えるとき、多くの異なるネットワークにわたって活用することが重要です。基本的には、『1日後のリテンションはどうなっているか?』といった指標を見て、プレイヤーをゲームに呼び戻し、さらにプレイし続けてもらう能力を最大化しようとします」と、データに基づいた運用について説明した。

(10億アクセス以上のタイトルを複数抱えるTwin Atlas)
また、開発者はリアルタイムのフィードバックを得やすい。セイラリ氏は、「プレイヤーからのリアルタイムのフィードバックを得る本当の機会があります。そして、人々が楽しんでいるゲームかどうかを頻繁に確認できます。もしそうでなければ、そのアイデアを捨てて、何か別のものを考え出し、それを反復し続けます」と語る。
Splitting Point StudiosのCEO、ヤンゼン・マドセン氏も、「私たちは週ごとのアップデートスケジュールを守ろうとしています」とし、「人々がゲームに参加したら、私たちのコミュニティ、例えばDiscordグループやRobloxグループで、毎週話し合います」と、コミュニティとの対話を通じた改善プロセスを明かした。さらに、「分析ダッシュボードで、間違いを犯したかどうかを即座に見ることができます」と、迅速な効果測定が可能である点を挙げた。

(3つのゲームを継続運営するSplitting Point Studios)
ただし、「Bee Swarm Simulator」の開発者ピアセン・ハーバート氏は、「適切に設計すれば、週ごとのコンテンツアップデートを行わなくても、長く存続できる。Robloxにはそんな長寿ゲームも多い。」とも指摘しており、アップデート頻度はチームの体制と設計思想によるところもあるようだ。

「広告を出すより”良いゲームを作る”」

多くのプラットフォームでは広告投資がユーザー獲得の鍵となるが、Robloxでは少し事情が異なる。登壇者たちは、Robloxにおいては、広告よりもオーガニックな発見(Discovery、ディスカバリー)やコミュニティの力が重要であるという見解で一致していた。
マドセン氏は、「今でもRobloxはユーザー獲得と発見において、ほぼ唯一の経路だと思います。他のプラットフォーム経由でどうやってユーザーを獲得するのか、見当もつきません。Robloxではそれについて考える必要すらありません。良いゲームを作ればいいだけです」と、プラットフォームの発見(ディスカバリー)機能への信頼感を示した。
ハーバート氏も、「私の友人の成功したゲームのほとんどは、広告にお金を投じるようなことはめったにありませんでした。Robloxでは機能しません」と断言。「私も広告に60ドル使ったことがありますが、それすら必要なかったかもしれません。プレイヤーの口コミで広がり、雪だるま式に増えていったからです」と自身の経験を語り、Robloxの発見メカニズムは「より大きな資金を持っているからといって、あなたのゲームがプレイされるわけではありません」と指摘した。
ブランド側もこの点を認識している。NASCARのレンド氏は、「何度も試してみて、ディスカバリーがどのように機能するかを学びました。ファンにどこでこのゲームを見つけるように指示しようとしても、それがどれほど無駄であるかを見てきました」と語る。ブランドが多額の広告費を投じるよりも、「開発者に投資し、プラットフォームに耳を傾け、コミュニティにリードさせましょう」とアドバイスした。
サンリオのコーク氏も、「サンリオは従来より広告に多額のお金を投じない企業です」と述べる。「ファンが自分でコンテンツを見つけることも、ブランドにとって非常に重要です。私たちはこの50年間、そのアプローチを試みてきました」というサンリオのブランド哲学がRobloxの発見メカニズムと合致しているとした。

成功の鍵「開発者を信じろ」:“Robloxらしさ”を掴むために

Robloxで成功する体験を創出するには、プラットフォームとコミュニティの独自の文化、いわば「Robloxらしさ」を理解することが不可欠である。そして、その理解には、経験豊富な開発者との緊密な連携が鍵となる。
ハーバート氏は、「Robloxの楽しさはユニークだと思います。私のゲームは、どんなジャンルかも知らずに公開して、運営を始めました。Robloxのゲームは、時にはほとんどゲームとは言えないようなものすらあります。それでも楽しいからユーザーが集まるのです」と語り、従来のゲームの常識にとらわれない発想の重要性を示唆した。成功の秘訣として、「クリエイターがプラットフォームで育ったからだと思います。彼らは完全にRobloxがアイデンティティなのです」と述べ、プラットフォームネイティブな感覚の重要性を指摘。「Robloxコミュニティに耳を傾け、それを学ぼうとすることです。ゲームのアイデアを持ってきて、それがRobloxで成功することを期待するのではなく」とアドバイスした。
セイラリ氏も、「楽しいものを作るためには、プレイヤーが実際にやりたいと思うゲームを構築することに帰着すると思います。クリエイターである私たち自身もプレイしたいと思うゲームを」と、プレイヤー視点と開発者の情熱の重要性を語った。
ブランド側にとって、この「Robloxらしさ」を掴むのは容易ではない。そこで重要になるのが、開発スタジオとのパートナーシップである。サンリオのコーク氏は、「私たちの視点からは、コミュニティを理解するために開発者に大きく依存しています」と述べ、「彼らがプラットフォームと何が機能するかを理解するのを助けてくれています。ブランドの観点からは、そのブランドと開発者の関係が私たちにとって重要でした」と、開発者との信頼関係の重要性を強調した。

NASCARのレンド氏も、「Jailbreak」(2人の開発者によるゲーム)との協業事例を挙げ、少人数チームでも大きな成功が可能であることを示す一方、「私たちはより大きな開発スタジオとの連携も経験しており、彼らはそれを機能させる方法を見つけ出しました」と述べ、様々なチーム規模での成功例があるとした。そして何より重要なのは、「パートナーを信頼する」ことである、と。
開発を始めるにあたって、マドセン氏は「Robloxを始める良い方法は、ゲームを完成させることです。」と、まずはRoblox Studioのツールを活用して何かを作り上げることの重要性を説いた。
ハーバート氏は、「成功するゲームがどのようなものか、先入観は捨てたほうがいい」とし、「Robloxのコンテンツが従来とは異なる独自のメディアであることを認識する必要があります」と、固定観念にとらわれずにRobloxの特性を理解するよう促した。
今回のパネルディスカッションを通じて、企業がRobloxを活用する上での重要なポイントが浮き彫りになった。それは、プラットフォームの巨大なスケールとユーザーエンゲージメントの可能性を認識しつつも、従来のプラットフォームとは異なる戦略が求められるということである。

初期戦略に固執せず、ユーザーの反応を見ながらアジャイルに体験を進化させること。
プラットフォームが提供する分析ツールや迅速な開発・運用サイクル(ライブオプス)を最大限に活用すること。
広告に頼るのではなく、コミュニティに響く質の高い体験を作り、オーガニックな発見を促すこと。
そして何より、Robloxの文化を深く理解する開発パートナーと緊密に連携し、共創していくこと。

こうしたポイントを理解し実践することで、Robloxという新たに登場したユニークなプラットフォームで企業が成功を収めるために重要になりそうだ。
日本でも企業によるRobloxの活用が増え始めている。先行する北米圏のノウハウを参考に、さらなる成功を掴む事例が登場することに期待したい。

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