記事のポイント

バンダイはα世代への訴求のため、たまごっちをロブロックス上で展開した。

「育てる喜び」と「失う体験」を核にIPの感情価値を再強化した。

PR色を排し、体験とメッセージ性でグローバルファン層を拡大した。

1996年の発売から29年。国内外累計出荷数1億個を売り上げた「たまごっち」が、ゲームプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」で新たな挑戦を始めている。デイリーアクティブユーザー9780万人以上(2024年第3四半期 ロブロックス社発表)の4割超を13歳以下が占めるこの空間は、いまや世界の子どもたちの主要な遊び場だ。

ロブロックス専用のオリジナルゲームとして開発された「Tamagotchi Party(たまごっちパーティー)」では、プレイヤーのアバターがたまごっちデバイスを装備し、広大なワールドでたまごっちの仲間たちと一緒に冒険する。注目すべきは、これが単なるゲーム移植ではないということだ。「デジタルペットを本物のペットにする」──バンダイが社内で掲げるこのコンセプトの裏には、デジタルネイティブ世代に「育てる」という感情体験をどう届けるかという本質的な問いがある。

いまなぜ、たまごっちはロブロックスという次世代のメタバースに飛び込んだのか。たまごっちのグローバル展開を担うバンダイの佐藤公彦氏と青柳知里氏に、その戦略と発見について聞いた。

おもちゃ売り場からメタバースへ——変わる子どもたちの遊び場

DIGIDAY編集部:まず、たまごっちをロブロックスで展開することになった背景を伺いたい。

佐藤公彦氏(以下、佐藤):端的に言うと「子どもたちは今ここにいる」からだ。現在、たまごっちはZ世代を中心にファッション小物や推し活アイテムとして使用されるなど、国内外でブームが再燃している。これは単なる新規ブームではなく、特に北米では90年代からの固定ファンという土台の上に、新世代が加わる形で市場が拡大している。

新シリーズ「Tamagotchi Paradise(たまごっちパラダイス)」は、Z世代よりさらに若い、α世代(アルファ世代)と呼ばれる10歳前後の子どもたちにもアピールしたいと考えた。彼らにリーチするには、日常的に遊んでいるロブロックスでの展開が不可欠だと判断した。

佐藤公彦氏

DIGIDAY編集部:物理的な玩具の販促のために、なぜゲームプラットフォームを選んだのか?

佐藤:今の子どもたちにとって、ロブロックスやマインクラフト(Minecraft)は「ゲーム」ではなく、世界中のユーザーと一緒に過ごすボーダーレスな「生活空間」だ。テレビCMを打つよりも、彼らが実際に時間を過ごしている場所で体験として触れてもらう、その方が確実にリーチできると考えた。

青柳知里氏(以下、青柳):加えて、このプロジェクトは単純なプロモーションを超えた意味がある。小さなおもちゃの筐体では表現しきれなかった「たまごっちの世界」の広がりを、デジタル空間で初めて見せることができる。そこに大きな可能性を感じている。

青柳知里氏

DIGIDAY編集部:新型デバイスと「Tamagotchi Party」では、どのような世界観と体験を提供しているのか?

青柳:たまごっちのコンセプトの核は「自分のペットを育てること」だが、私たちが社内で真剣に掲げている目標がある。それは「デジタルペットを本物のペットにする」ことだ。

ロブロックス内では、プレイヤーが歴代たまごっちの筐体を背負い、「Tamagotchi Paradise」のワールドを一緒に散歩する。手のひらサイズの筐体から離れて、ペットと外へ出かける感覚を実現したかった。

佐藤:近い将来、たまごっちが本物のペットと同じように、人々の心の支えになる世界を目指している。悲しい気持ちや寂しい気持ちを楽しい気持ちに変えてくれる存在。リアルにいる犬や猫と同じようなポジションにたまごっちがなれたら、それが理想だ。

青柳:そのために、おもちゃの方では店頭に大きなたまごっちを置き、ドッグランのようにたまごっちの仲間たちを放して遊べる施策も展開している。それがオンライン上でできるのがロブロックスの『Tamagotchi Party』というイメージだ。

実際、ロブロックスでの展開では非常に大きな手応えがあった。自分が操作主体としてワールドを回れる、体験に参加できるから自分ごと化できる。この点が、既存のメディア施策との大きな違いだと考えている。

「死」という原体験が育む、たまごっちだけの感情価値

DIGIDAY編集部:たまごっちと言えば「死」も重要な要素だったが、この点は新型デバイスでも継承されているのか?

佐藤:もちろん。もともとたまごっちには興味深い設定がある。1996年に地球外生命体を乗せた宇宙船が隅田川に漂着したが、そのままでは地球の環境下で生きられない。そこで、彼らの生命維持装置として博士が作ったのが、あのデバイスである——という設定だ。

つまりあの筐体のなかには、お世話しないと死んでしまう本物の生き物がいる。その設定をしっかり洗い出してリブランディングすることで、あのヘンテコな生き物たちの存在感をもっと高めていこうというのが我々の狙いだ。

青柳:たまごっちの歴史のなかでは、「死」を打ち出さずにファンシーキャラとして推していた時代もあった。しかし議論を重ねた結果、やはりそこが没入体験の大きな要素だという結論に至った。本当に「生きている」と感じてもらうためには、「死ぬ」可能性も必要だ。「死ぬとお星さまになる」設定は、今のデバイスでも生き続けている。

DIGIDAY編集部:「子どもの頃、初めて生き物の死を実感したのがたまごっちだった」と語るファンが多いと聞いている。

青柳:確かにそういう声は多い。たまごっちが死んでしまうと泣いたり、デバイスを庭に埋めてお墓を作ったりする子どもたちもいる。この「失う体験」があるからこそ、単なるゲームではない深い感情移入が生まれる。だからこそ、この体験の説得力を高める当初の世界観を再び押し出したいと考えている。

「なぜロブロックスに投資するのか」社内説得の舞台裏

DIGIDAY編集部:プロジェクトを進める上での困難もあったのでは?

佐藤:正直、私たち制作チームも含めて、ロブロックスへの理解を深めることが最大の課題だった。ロブロックスは子どもたちのあいだでは圧倒的な存在感を持っているが、日本の大人、特にビジネスパーソンにとってはまだ馴染みが薄い。当社の意思決定層も例外ではなかった。「数あるゲームのひとつ」ではなく、子どもたちにとっては「遊び場そのもの」なのだという認識のギャップを埋めながら、そこへの投資価値を理解してもらう。このプロセスには粘り強さが必要だった。

青柳:加えて、たまごっちの「見守りたくなる温かな世界」を、ユーザー自身がゲームを作って公開するというロブロックスの「尖った世界」に、どう落とし込むかという課題もあった。しかしここに関しては絶妙なバランスを見つけることができ、特に北米では「Tamagotchi Paradise」の予約や購入に直接繋がっていそうな結果も得られている。

DIGIDAY編集部:実際に予想を上回る反響で、継続的なユーザー参加を得ていると聞いている。グローバル展開において、地域差への配慮はどのようにしているのか?

佐藤:確かに以前は地域差を考慮する必要があった。アメリカはビビットな色を、日本はパステルカラーを好むといった具合に。しかし最近は状況が変わってきている。

青柳:今は「私たちが打ち出すプロダクトを受け入れてくれる子どもたちが各国にいる」という状況になった。オンラインゲーム空間の子どもたちがフラットになっている。子どもに向けて作るという点では、国境がなくなってきているように感じる。

「#PR」は即離脱。Z世代の本音とは

DIGIDAY編集部:Z世代との関係性を築く上で、どのような点に注意しているか?

佐藤:PRくさいことをやらないことが重要。「#PR」は「やっぱり偽物じゃん」となってしまう。私はよく原宿のコミュニティでたまごっちのファンと直接話すが、企業と消費者という関係性ではなく、人と人として向き合い、お互いの感覚や価値観を大事にする——そういうコミュニケーションが求められていると感じる。

青柳:バズれば何でも流行るのがZ世代だと思われがちだが、決してそうではない。コンテンツを作るときに大切なのは、背景にきちんとしたメッセージがあることだ。

新作「Tamagotchi Paradise」では、若い世代に「命の大切さ」だけでなく、「地球上の生物多様性」に関心を持ってほしいという願いを込めている。育成環境を「りく・みず・そら」から選ぶことができ、お世話の仕方や親の遺伝の組み合わせによって、5万通り以上の異なる姿や特徴を持つたまごっちが誕生する設計だ。ロブロックス上の『Tamagotchi Party』ワールドでも、「りく」「みず」「そら」の世界観をさらに楽しめるようにした。

たくさんのキャラクターがいて、個性的だからこそ世界が豊かになる。そんなメッセージに触れた子どもたちが、将来たまごっちのことを思い返したときに、何か人生のヒントになったらいいと考えている。

IPリブランディング、その先に見据えるもの

DIGIDAY編集部:今後、メタバース領域での展開についてはどのように考えているか?

佐藤:今のところロブロックス以外のプラットフォームでやる予定はない。ロブロックスで非常に好意的に受け止められているので、まずここを強化していきたい。ゲーム内で楽しんでくれた子どもたちが「リアルのたまごっちも欲しい」と思ったときに、Shopify(ショッピファイ)などを通じてスムーズに購入できる導線を、今後整えていく予定だ。

DIGIDAY編集部:29年という長い歴史を持つIPが、まったく新しいプラットフォームで次世代と出会う。この取り組みから見えてくる可能性とは何か?

佐藤:たまごっちというIPには膨大な潜在ファンが存在している。重要なのは、体験をシンプルに研ぎ澄ましていくことだ。

ゲームには複雑な操作や熟練が必要なものもあるが、たまごっちは違う。「一緒に過ごしている」という感覚を、誰もが直感的に味わえるようにする。新しいプラットフォームに移っても、このIPの本質的な価値——育てる喜びと、失う哀しみから生まれる感情の絆——は決して変えてはいけないと学んだ。

青柳:たまごっちの強みは、世代を超えて戻ってきてくれるファンの存在だ。20年前、30年前に遊んでいた人が、大人になって「あの頃の体験」を思い出し、また手に取ってくれる、そのように長く愛されるコンテンツになるためには、目先の売上や話題性だけを追うだけでは足りない。小さなおもちゃの背景に、心に残るメッセージや体験がある「本物」を作ることが重要だと考えている。

文/田邉愛理 取材/遠藤祐子
撮影/伊藤圭

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