2023年にリリースされた「Number Merge Run」。初速のダウンロード数も及第点で、長い間「目立たないタイトル」となっていました。社内でも「期待されていなかった」このゲームが2年の時を経て、1000万ダウンロードを突破しました。
なぜこのゲームは、いまになって世界中で遊ばれるようになったのか。その裏側にあったのは、インストール数よりも「継続率」と「リワード広告」を徹底的に重視した、極めて地道な運用でした。
本記事では、ゲームエンタメ事業部の企画・実装・マーケティングの3名に、リリース当初の停滞期から現在に至るまでの試行錯誤と、「もう終わった」と言われるハイパーカジュアルの“次の世代”を見据えた開発思想、新しい勝ち方のリアルに迫ります。

向かって左から泉川 雄一(エンジニア)、林亮太(企画・マーケティング)、北村 麻奈(マーケティング)
インストール数より、継続率とリワード広告を重視したチーム


1000万ダウンロードを突破した現在の率直な感想をお聞かせいただけますか。

泉川
率直な感想…「今更」(笑)。出したの自体は2023年の秋ごろなので「ようやく行ってくれたか」って感じですね。


いつの間にか、って感じですね。

北村
嬉しいですね。

リリース当初、あまりダウンロードされていなかった状況について、どう思いましたはいかがでしたか?


リリース当時は、開発者側だったこともあり、インストール数がそんなに伸びていないことなどは、そんなに気にしていませんでした。それよりもインストールしてくれた人が、どれだけ遊んでくれるかというプレイタイムやゲーム継続率の方を意識していましたね。

「継続率重視」へシフトしたきっかけはあったのでしょうか?


どちらかというと、最初から継続率を高くすることを意識していました。普段カヤックが出しているハイパーカジュアルゲームは、一定時間毎に広告が自動で流れて、流れた広告の数で収益が出る「インタースティシャル広告」が基本ですが、僕たちはリワード広告(広告をみることで得られる報酬)を重視しました。

泉川
リワード広告は、ユーザーが「このアイテムが欲しい」「このインセンティブが欲しい」と、能動的に見る広告です。このリワード広告の回数を重視してゲームの実装も考えて、このマネタイズの割合を増やすことを1番意識していました。

毎日、手当たり次第に回したABテストと「数字のインフレ」


インストールの数値が伸び悩んでいた時期、現場ではどのような微調整を繰り返していたのでしょうか?

泉川
とにかく色々なテストができるように拡張していました。 AB テストも、常に6本は最低でも走ってる、みたいな。結局「 AB テストをやりすぎてて実は意味なかったんじゃないか?」っていうくらいに(笑)。


ほぼ、毎日手当たり次第にしましたね。
結果出なかったら、出ないものは放置するんですけど、6個のうち1つは絶対に毎日差し替え。1つは絶対毎日差し替えるみたいな。
泉川さんの、実装が早いからできたことだと思います。

泉川
空の色変えたりとか、フォントのサイズ変えたりとか、アウトラインの色変えたりとか、ステージの長さ調整したりとか、ゴールの報酬の数増やしたりとか。本当に微調整なんですけど、日々アップデートしていました。


バランス調整とかもあったし、泉川さんが実装してくれたステージのプリセットが何個かあって、それをランダムな組み合わせで出す、みたいなこともしてましたね。

泉川
ステージジェネレーター(ステージを自動生成できる仕組み)みたいなのを作って、色々なステージ作って入れたりしてましたね。

企画の方と実装の方が話し合って進めていたのでしょうか。


泉川さんの場合、実装が早いので、話し合うより先にできあがってくるんです(笑)。「こういうのどうですかね?」というと、できるかどうかの返事よりも、出来上がったものが先にでてくる。「じゃあ、できたならテストしますか」ぐらいのスピードでした。

泉川
「できたんで入れてください」って感じです(笑)。

もともと、このゲームのアイデアはどこから生まれましたか?


そもそも企画の発着点は、ランゲームをつくる上で、最初は銃とか弓矢とか色々なモチーフを試したんですけど、その内側にはどれもパラメーターの数字を入れていくんですよ。そこに、外側のモチーフを変えて「こういう演出だったらいいかな」みたいに試したんです。
だけど、パラメーターに数字を入れるのは基本的に毎回同じなので「(外側のモチーフって)いらなくない?」ってなって(笑)。「数字をそのまま出しましょう」と言ってできたのが、「Number Merge Run」です。
外側がモチーフの場合は、「キャラクターや武器のスキン(見た目)を変える」とか「エフェクトを豪華にする」みたいに豪華になっていかないと成長要素って感じられない。けど、数字は数字のままでも、とりあえず大きくなれば視覚的にも「大きくなった」「成長した」というのが誰でもわかる。そこが「Number Merge Run」で受け入れられたところなのかな。「Number Master」も人気が出たのは、同様の理由だったと思います。

泉川
あとチーム内でアイディアをみんなで書き溜める共有のネタ帳みたいなものに、「数字」というメモがあって。


それをみて、「確かに、『数字』いいなあ」っていう直感みたいなものでした。


長く遊んでもらうために工夫したポイントはありますか?

泉川
桁数を無限に増やせるようにした(笑)。「Number Merge Run」は数字をどんどん増やしていくゲームなので、プレイヤーが限界なく楽しめるように、桁がいっぱい増えるようにしました。


本当に「数字のデカさ」が肝ですよね。

泉川
「Number Master」の数字と数字がぶつかることで足し算的に増えるんですが、「Number Merge Run」にはさらに、数字から数字が発射されるシューティングゲームの要素もあって、倍々で大きくなっていく。よくわかんない単位の数字まで膨れ上がったりするから、インフレ率が高いんですよね(笑)。

新卒マーケターが見つけた「伸びるはずだった数字」


インストールが伸び悩む中で、北村さんはマーケティング担当としてどうしてこのゲームが「いける」と思ったのですか?

北村
「Number Merge Run」は、私が新卒で入社して、1番最初に集客を見ることになったタイトルなんです。その頃には既にリリース済みで、新規機能の開発も一通り完了していたタイトルでした。だけど、私は新卒で割と時間もあったので、データを細かく見比べてみたんです。
そうすると、インストールではなく、継続率で比較してみると他のゲームよりも高いことに気付いたんです。さらに、リワード広告の収益も高かった。だから、当時はチームで反対もされたんですけど、もっと展開国を増やしてみたいと提案しました。

泉川
当時はマーケティングと開発は、分業性だったので、今ほどコミュニケーションが活発ではなかった。
だから、開発した僕らは、「あぁこんなもんか」って思ってたんですけど。マナフィー(北村)が、インストールが少なくても儲かるタイトルだっていうのを見出してくれたのが大きいですね。

新卒という状況で、すごい貢献ですね。

北村
たまたま色々見ていて、ですね(笑)。
このこともあり、現在は、マーケターは各自で担当するタイトルを受け持って、それを毎週チェックするようになりました。

「時代」と「チーム」が噛み合った転換点
マーケティング担当との連携がすごくうまくいった事例なんですね。現在は、アドテクノロジーの進化によって長くじっくり遊びたいプレイヤーにリーチする「D28(28日目)※」での最適化がありますよね?

※ROASキャンペーン(D28) インストール後28日間の課金額をAIが予測し、目標とする費用対効果(ROAS)を達成できるよう自動で入札・配信を行うAppLovinの機能

北村
そうですね。ちょうど、2024年冬ごろに「D28」が出てきて、広告AIも「長期に遊ぶ人に向けたコミットをしていく」っていう流れに乗れたことも、「Number Merge Run」が伸び続けた一つの要因だと思います。


俺たちの時代がきたって感じですね(笑)。

泉川
時代がついてきてくれたかもしれない(笑)。

北村
でもその当時に見捨てられちゃってたら、この広告AIを試そうかともならなかったと思うので、続けてきてよかったですね。

今回の経験を経て、他に伸びる可能性があるゲームを探したりしていますか?

北村
同様のケースはなかなか難しいのですが、「Gun Sprint」は、まだまだ伸びる気がしています。


今は、最初のリリースの段階からマーケターも一緒に開発側と話すようになったので、「まず埋もれさせないようにする」という状況ですね。
僕は、ゲーム開発からマーケターに異動したんです。
毎朝の朝会で、開発段階のゲームについて「どんな開発をしているか」を聞くようにしています。開発側も 「アメリカでの調子どうですか」と聞いたり。以前前だったら、ゲーム開発後は、マーケターが自分たちで考えて集客していくという、分業体制でした。

開発者からマーケターへ。「尊重」と「数字」の間で強化された判断力
開発者からマーケターへ異動したからこそのメリットはありますか?


マーケターが重視するのは収益なので、そのゲーム開発者がつくりたいと思っているゲームへの尊重とか、そのゲームの特性には目が向きにくいんですよね。

例えば「Number Merge Run」の時は、配信が当初アメリカだけだったのも知らなかった。最初からマーケターと話していたら「これ数字なので、インドでもどうですか?」と提案できたかもしれない。

北村
すずめさん(林)がマーケティングチームのリーダーになったので、開発者との連携がとれて風通しがすごく良くなりましたよね。


開発者とマーケターが密接にコミュニケーションを取るようになったことで、マーケターが「別タイトルで上手くいったアイデアを、こっちのタイトルでも取り入れたらいいのではないか?」という開発提案もできるようになりました。
例えば、にーの(大谷一之)さんはボクセルデザインが好きで新作のテストタイトルに取り入れていたんですけど、改善中の別のタイトル「Chain Havoc」の敵キャラクターにボクセルを取り入れてみたら?と提案したんです。これでLTV(顧客生涯価値)が伸びて、継続率も向上したということがありました。

開発者目線でゲーム開発を尊重していたら、逆に甘くなってしまう時もありますか?


もちろんゼロではないです。でも、カヤックの経営理念は「つくる人を増やす」なので、「つくる人」を尊重することが大切だと考えてます。マーケター目線で「明らかに無駄になるかもしれない」という場合は、その通りに伝えますが、それでも開発者がどうしても試したいという場合は、尊重してやらせてみる。そこで、その通りに失敗したとしても、それは開発者の経験値になります。
逆に、マーケターが「うまくいかない」と思っていたものが成功すれば、それはマーケターの経験値になります。そこはトレードオフですよね。

「ハイパーカジュアルは死んでいない」、第4世代の勝ち方


業界では「Hypercasual is dead(ハイパーカジュアルは死んだ)」というような声もあるようですが、今回の成功で何を証明できたと考えられますか?

泉川
「Number Master」を開発した時から「Hypercasual is dead」と言われてきて、逆にそれでも いいから「Number Merge Run」をつくろうとつくったんですよね。


そうですね。
ハイパーカジュアルゲームは、従来の広告収益の一本化から、アプリ内課金を積極的に導入するということでもあるんですが、流れとしてはプレイヤーが長く遊びたくなる、つまり継続率重視の方向で、世の中の技術が進歩してきているということでもあります。
昔は継続率が高くても、初日に遊ばれないゲームは初日しか最適化されない、広告が回りづらい仕組みが、今は「D28」が象徴するように、続けて遊んでもらえるゲームにも最適化されるようになった。

北村
つまり、ハイパーカジュアルであろうが、ハイブリットカジュアルであろうが、自分たちが面白く、プレイヤーの方に長く遊んでもらえるゲームをつくるということですよね。

泉川
「Hypercasual is dead」は、まだdeadしてなかったということですかね(笑)。あるいはハイバーカジュアル2.0なのかもしれないですけど。


第4世代的には4.0。バージョン4.0。

泉川
「Number Merge Run」は芽が出るのが遅かったのかな(笑)。2023年の秋にリリースしたタイトルが、課金要素をいれるアップデートもあり、2025年秋には粗利が前年の2倍になっている。しかも、まだ伸びているってなかなかない。2年たって、ようやく一軍に入れたんです。

北村
iOSには課金要素を入れていないから、 iOS に対応してさらに良くなりますよね?

泉川
そう!まだ iOSに対応してないですから。それでまた伸びる可能性もあって。夢があります(笑)。


まだまだ育てられますね。
継続率はトップクラスですもんね。あとプレイヤーがリワード広告をみてくれている数はカヤックのゲームの中で1番なんじゃないかな。
他のハイカジは、大体 LTV の改善フェーズでリワード広告を入れるとうまくいかないけど、「Number Merge Run」は、企画の段階からリワードがある前提だったから、うまく噛み合いましたよね。

泉川
数字のインフレ具合がリワード広告と相性いいというのもあります。
リワード広告をみたあとは、シューティングの弾が3倍に増えて、雪だるま式に数字がどんどん増える様子が面白さになっているのかな。1000でスタートでしたのに、クリアする時はなぜか100兆みたいになってるから(笑)。

北村
本当に「Number Merge Run」のリワードはすごい。「そんな増やしていいの?」って思っちゃいました(笑)。

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