量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回、藤井氏にインタビューを実施。量子コンピュータの仕組みが学べるゲームについて聞いた。(取材・構成/小川晶子)
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量子コンピュータのことが学べるゲーム
――藤井先生は、総合IT企業ティーアイエス社と共同で『QuantAttack(クアントアタック)』というパズルゲームを発表されています。このゲームを通じて量子コンピュータの原理や基本の計算を学ぶことができるそうですが、どのようなゲームなのか教えてください。
藤井啓祐氏(以下、藤井):僕はもともとゲームが好きで、自分が絶対に勝てるように(笑)得意なものをゲームにしました。それがQuantAttackです。
量子コンピュータのアルゴリズムを設計しているとき、今の量子コンピュータはそれほどパワーがないので、できるだけ無駄な計算を省くというプロセスがあるんです。
たとえば1を足したあとに1を引くという操作があった場合、結果は元に戻るので省略できますよね。量子回路を見て、そういう無駄な操作をしているところを見つけては消し、コンパクトにして最適化していくんです。
量子コンピュータを黎明期から触っている人は、これが絵的にわかって「はい、これは無駄」「これも無駄」と消しいていくことができます。数式で説明することもできるのですが、パターンマッチングに近いんですよ。
そこで、量子コンピュータの中の回路をコンパクトにするのをパズルゲームにして、皆さんに遊んでもらおうと思ったのがきっかけです。
量子コンピュータ研究の入口
――このゲームに強くなったら、量子コンピュータ研究の入口に立てるかもしれないですね。
藤井:そう思います。
実はこのゲームもうまくできていて、最初は適当にガチャガチャ動かしていればいいのですが、高得点を出すためには複雑なルールでブロックを消す必要があるんです。その複雑なルールをゲームの中で身に着けた後、量子コンピュータの何に対応しているのかを学べば理解が早いと思うんですよ。
たとえばH、X、Hの3つが消えてZになるのですが、その背景には行列のかけ算が隠れています。「消える」というのは、単位行列と呼ばれる行列になることに対応しており、すべて数学的に説明ができるんですね。
ですから、このゲームにハマった人が、ルールについて調べるなかで「これは行列でもっと簡単に説明がつくじゃないか」と気づいたりしたらもうこっちのものです。量子コンピュータの世界へようこそ。
今iOSに向けてバージョン2を作っています。
バージョン2のほうがよりルールを理解しないと得点が上がらないようになっています。このバージョン2を含めて、研究室公開を秋の大学祭で行ったところ、老若男女500名ぐらいの方が来てくれました。
ゲームを一度プレイしてもらうと、その後の説明を聞いてもらいやすいことを実感しました。いきなり量子コンピュータの話を始めると一瞬で眠たくなるところ、「ゲームの中にこういうブロックがあったと思いますが、あれは~」と話すとよく聞いてもらえるんです。
――今後、日本の量子コンピュータ業界が盛り上がっていくためには、関わる人が増えたほうがいいですもんね。
藤井:そうなんです。ぜひ若い世代に興味を持ってもらいたいのですが、中学生に量子コンピュータの話を真正面からしてもなかなかピンと来ないでしょう。
ですから入口としてゲームはいいんじゃないかなと思っています。
量子コンピュータが一気に広がる世界
藤井:量子コンピュータにはさまざまな可能性がありますが、体感できるレベルで「変わったな」と感じるには一般消費者が使える状態になる必要があるのかなと思います。AIにしても、ChatGPTなどを一般消費者が使うようになって、一気に世界が変わった実感がありますよね。
そういう意味では、量子コンピュータがどういうBtoCの展開をして世界を変えるのかというのはまだわかっていません。これがわかったら、イーロン・マスクやビル・ゲイツになれると思うんですけどね。ぜひ誰かに見つけてほしい。
もしかしたらゲームはその一つかなという気はします。
量子コンピュータを使ったゲームがすごく面白ければ、一気に広がるかもしれません。AIが仕事をしてくれて、暇だから量子コンピュータのゲームで遊ぶか、というシナリオもあるのかな。
そのあたりはまだわかりませんが、量子コンピュータのBtoC展開も視野に入れて、みんなで研究していきたいですね。
(※この記事は『教養としての量子コンピュータ』を元にした書き下ろしです。)
量子コンピュータは「単なる速い計算機」ではない――著者より
皆さんは「量子」あるいは「量子コンピュータ」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。
「何か不思議でよくわからないもの」「小さくて難しそうなもの」といった印象を持つ人もいれば、最近では「ビジネスにつながりそう」と感じている人もいるかもしれない。
量子関係のニュースが出ると乱高下する「量子銘柄」なる企業の株もあるそうだ。
あるいは、残念ながらテレパシーや死後の世界など、精神世界の崇高なキーワードとして「量子」が語られることもある。
なぜ「量子」にはこれほど多種多様なイメージがまとわりつくのだろう。
それは、量子が日常的に見たり触れたりできる「古典的な世界」とは異なる、私たちの直感を超え、想像力を必要とする「概念的な世界」とつながっているからかもしれない。
これが「量子」の持つ不思議な魅力や技術の可能性の根源でもあり、また同時に、そのわかりにくさの理由にもなっている。
量子コンピュータはこれから世界をどう変えるのか?
正直にいうと、私たち研究者にもまだはっきりとはわからない。
それが知りたくて量子コンピュータの研究をしている。
一九五〇年代の科学者たちが、将来コンピュータが人類全体のコミュニケーションや経済の基盤になるとは想像できなかったように、量子コンピュータが何をもたらすかも、これから形づくられていくものだ。
しかし、確かなのは「何かすごいことが起きそうだ」という予感である。
そして、そうした予感を信じて手を動かし続けた人たちが、現代のインターネットや生成AIを作ってきた。
本書では、量子力学誕生から百年にわたる歩みと、そこから生まれた量子コンピュータの全体像、そして未来に向けた応用までを、わかりやすく、かつ読者の好奇心を刺激するような知的な冒険の軌跡として紹介していく。
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最前線研究者の知見を活かし、量子コンピュータについて余すことなく面白く伝える一冊!
2025年は「量子力学誕生100年」の記念の年だ。
そんな今、量子コンピュータが私たちの日常を変える日は、実はすぐそこまで迫っている。
だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。
単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」を身につけよう。
西成活裕氏(東京大学教授)
「最先端の研究開発競争やビジネス現場も垣間見ることができる最高の入門書だ」
橘玲氏(作家)
「私のような門外漢にも、すべてが変わることがよくわかった。楽しみでもあるし、怖くもある」
橋本幸士氏(京都大学教授)
「世界を研究で先導する藤井氏の情熱あふれる本書は、物質情報の世界をゲームを解くように教えてくれる。量子の研究は知的冒険だ!」

