『大戦略SSB2』に至るまでの壮大な歴史
近年、急速に国際関係が悪化に向かい、特に日本周辺を含む東アジア諸国の安全保障環境は厳しさを増す一方だ。このようにきな臭い空気を先読みしたかのように登場するのが「大戦略SSB2」(システムソフト・ベータ)である。
本稿では、「大戦略SSB2」が「戦争」という事象のどのような場面を扱うものなのか、ゲームを通じてユーザーは戦争のどのような側面を知ることができるのか、といった観点から解説していこう。ちなみに「大戦略SSB2」——暗号のようなタイトルには、展開元であるシステムソフト・ベータの略称と同時に、ロゴにもあるように〈Supreme Strategic Battles〉、すなわち究極の戦略バトルを目指すゲームの2番目という含意がある。このような複雑なタイトルになっているのは、「大戦略」が、40年もの歴史を積み重ねてきたゲームであることを反映しているからだ。
シリーズ最初のタイトルとなる「現代大戦略」の発売は1985年11月のこと。プラットフォームはNEC製パソコンのPC-9801であった。登場する兵器ユニットの種類はデフォルトで14種類。パワーアップキットや隠しモードでほぼ倍まで増やせた。陸と空で役割が異なる当時の最新兵器が多数登場し、しかもそれぞれに攻撃力や防御力などの複雑なパラメーターが設定されていた「現代大戦略」は、パソコン市場を代表する軍事シミュレーションゲームとして、ミリタリーファンを熱狂させた。
以降、当時はマイコンと呼ばれていたPC市場を主戦場として、海軍の概念を採り入れ、全戦の戦いばかりでない立体的な奥行きをゲームシステムに加えると同時に、兵器データを洗練、強化するかたちで「大戦略」シリーズは進化する。そして今日では、現代戦をテーマとする戦略シミュレーションゲームのスタンダードの地位を築いているのである。
最新の本作では、従来の「空陸海」という3段階の高度区分が、5段階まで細分化された。これにより現代兵器の運用の違いが明確になる。同じ対空兵器でも、低空/高空の違いによって性能が変わるなどの要素を意識しなければならないのだ軍事課題のデジタル化に成功
「大戦略」シリーズは、ハードウェアの進化にともない、グラフィックや戦闘エフェクト、UIまわりなどが進化している。システム面でも、リアルタイム性の導入を試みた作品もあるが、基本は六角形のヘクスグリッドを使った平面状のマップを舞台とするターン制ストラテジーというシステムの根幹は、ほぼ一貫している。
これはゲームシステムの完成度の高さの証明だが、もう少し解像度を高めると、軍事シミュレーションという課題に対して、システムの選択が的確であるからという評価になる。
戦争を題材としたゲームは無数に存在する。その中で「大戦略」シリーズのような軍事シミュレーションゲームが重視しているのは「時間と空間のマネジメント」というテーマだ。攻撃にせよ防御にせよ、推敲された兵力や資源を駆使して、一定の時間の中で、重要な地理的な目標を占領し、あるいは敵の攻撃から守り続ける。軍事作戦とは、この「時間と空間のマネジメント」を巡る決断の繰り返しなのだ。
もともと「現代大戦略」はアナログ、つまりボードシミュレーションゲーム(SLG)をデジタルで遊べるようにしたものである。アナログがベースのSLGはボードゲームとしてはかなり難易度が高いものの、愛好家が多く、日本でも複数の専門誌が刊行されているように、根強い人気があるジャンルだ。そして現在では、ゲームとして遊ばれているだけでなく、現役の軍人や安全保障研究者の訓練ツールとして頻繁に使われている。
誤解を恐れずに言えば、「大戦略」シリーズは、軍事戦略のもっともゲーム的な部分を抽出したものなのだ。実績に裏付けられたシステムをデジタル化するのに成功したからこそ、今日も通用する息が長いシリーズになっているのである。
同じ平地でありながら、軍の移動を山岳地以上に制約する湿地や雪原が加えられ、歩兵や射程兵器の役割が大きくなる。また情報を丸裸にするレーダー基地の重要性も痛感することになる。軍事技術の進化にとって地形は最大の敵だ
初期のプレイ可能マップは54種類。有名な戦争の舞台や、日本の安全保障に関連したマップが登場するほか、おなじみのチュートリアルや、完全なネタも用意されている。現代紛争にフォーカスしすぎず、ゲーム性を重視したバランスが窺える最新兵器を貪欲に取り込む開発思想
以上が「大戦略」シリーズの長い歴史だが、その最新作となる「大戦略SSB2」とはどういったゲームなのだろうか?
最大の特長は、圧倒的な兵器の網羅性にある。兵器開発国としては、アメリカやロシア、中国など、現在のグローバルなレベルでの主要兵器開発国はもちろん、日本、韓国、ドイツ、イスラエルなども名を連ねる。中でも北朝鮮が個別の兵器開発国として登場し、独自の生産タイプが用意されていることは特筆すべきだろう。好むと好まざるとに関わらず、半島情勢は日本の安全保障に直結するだけに、ユーザーの関心に配慮した設計になっているのだ。また、発売後は追加コンテンツとしてイギリスやフランス、スウェーデンなどの兵器開発国がダウンロードコンテンツ(DLC)として追加されることが決まっている。
登場兵器の種類は、公式には300種類以上となっているが、まだ実戦配備されていない兵器も数多く用意されている点が興味深い。兵器の多様性はゲームの選択肢と展開を増やし、ユーザーの様々な要求に応えられるようになるからだ。
その一例が「戦艦」の登場である。戦艦はすでに役割を終えた——滅びた兵器というのが一般的な理解だ。ところが2025年12月、アメリカ海軍は突如として「トランプ級戦艦」の開発構想を公表して世界中の軍事関係者を驚かせた。「大戦略SSB2」ではこの戦艦も登場する。これは筆者もやり過ぎだと思わなくもなかったが、現代のミリタリーシーンにおける戦艦のインパクトがどのようなものになるのかという興味には抗えない。新兵器の詳細が明らかになる都度、DLCの更新と合わせてパラメーターに変更が入ることも期待できるだろう。
また「大戦略SSB2」の戦闘システムでは、これまで陸海空に設定されていた3段階の高度区分に、「海中」と「高空」の概念が加えられ、5つの高度区分になった。これにより兵器の特性がより鮮明となるだけでなく、兵器のパラメーターもより現実に即したものとなる。地形にも新たな要素が加えられている。
DLCのロードマップも一部公開されている。兵器には開発国の国防の課題が集約されているが、国ごとに違う兵器をどのように組み込むことができるのか、自由度の高さにも関心が集まるところだ
一時はネタかと思われた「トランプ級戦艦」は、現在、海軍兵器開発の壁に直面しているアメリカ海軍の突破口になる可能性の一つとして注目を集めている。そのインパクトをゲームで確かめられるのが本作の醍醐味だ緊張が高まる安全保障環境を踏まえた配慮
「現代大戦略」と銘打つ以上、現実世界とのリンクを考える必要がある。実際、シリーズの旧作となる「現代大戦略2020」では、〈揺れる世界秩序!大国の野望と世界大戦〉というサブタイトルの通り、かなりリアルな国際関係を反映したシナリオやマップが用意されていた。
しかし2022年2月にウクライナ戦争が始まり、台湾有事を巡る緊張関係が日増しに高まる現状では、必ずしもリアル路線が正解とは言いがたいものがある。実際、「大戦略SSB2」では、まずはリアルすぎる設定は抑えて、より競技性や仮想性が強いシナリオにスライドしている印象だ。起こるかもしれない戦争を検証するのは軍事シミュレーションの醍醐味だが、現在進行形の戦争や、目前で日々先鋭化している対立を積極的にゲームにすると、開発の意図とは無関係の好ましくないハレーションを起こす可能性が高まる。本作からは、その辺のバランスへの熟慮が窺える。これからアップデートにより提供される新マップで、プレイヤーの要望に応えていく判断なのだろう。
軍事シミュレーションと銘打つゲームは数多く、中には斬新なシステムやリアリティーを打ち出した、優れたゲームが数多くリリースされている。それを踏まえて、ミリタリーという尖った視点から眺めた場合、「大戦略」シリーズはある意味レトロな仕様のゲームだ。しかし、それは先に説明したとおり、複雑怪奇な戦争という現象から、もっともゲーム的な要素を抽象化するのに成功した結果である。「大戦略」シリーズは、同じく戦争の抽象化によって成立している将棋や囲碁に繋がる線上にあるゲームとも評価できるだろう。
緻密で派手な軍事シミュレーターを目指すよりは、ゲームとしての遊びやすさを追求しつつ、複雑な現代戦の様相を同一システム内で体系化し、一般的なユーザーが触れられる形にしたという点で、「大戦略」シリーズは唯一無二のブランドを確立している。ミリタリーに興味があるなら「大戦略SSB2」からは断片的な情報の積み重ねとは違う、ゲーム体験を通じたストーリー性のある理解を深めることができる。またかつての「大戦略」を知っているプレイヤーであれば、きっとあらゆる面での進化に驚かされるに違いない。
世界が大きな曲がり角を迎えている現在、「大戦略SSB2」がどのように形を変えながら、ユーザーに新しい魅力を提供するのか目が離せない。
豊富で緻密なパラメーターが「大戦略」シリーズの特長だ。「大戦略SSB2」では、高度区分の増加に合わせて各兵器の得手、不得手が一層明確にされている
登場兵器は300種類以上に及ぶが、数だけでなく、高度区分が増えたことで、航空作戦と海上作戦が複雑化する。特に現代海戦における潜水艦とその索敵手段が再現されることで、ゲームにおける海洋の重要性は大きく変わったはずだ
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