「俺はバッター。聖なる任務を任されている」

2008年にフリーゲームとして発表され、国内外でカルト的な人気を集めたフリーゲーム『OFF』が、時を超えて2026年にリメイクとなる日本語版をリリースしました。本作は、あくまでオリジナル版のストーリーやグラフィックを残しつつ、新フィールドやToby Foxなどによる新録のオリジナルBGMなど、新要素を追加した仕上がりとなっています。

ただ一方で、10幾年ぶりのリメイクとしてはいささかユーザビリティに欠ける部分など、今のゲームとしては遊びづらい点も多々見受けられました。本レビューでは、本作の謎に満ちた美しさと、ゲームとしてのプレイフィールの評価を行っていきます。

めくるめく謎と、メタファーに満ちたストーリー

本作ではプレイヤーは、「バッター」と呼ばれる謎の存在を操ることとなります。しかし、彼はプレイヤーの意思を投影したアバターではありません。それどころかバッターは、プレイヤーであるわたしたちの存在を認知し、こちらへ積極的に協力を求めてきます。彼の目的は、世界から悪しき亡霊を滅すること。プレイヤーはバッターや、水先案内役である猫の「ジャッジ」とともに、ゾーンと呼ばれる超精神的なフィールドを探索し、亡霊や、ゾーンを統べる4人の「ガーディアン」と戦うこととなります。

本作のストーリーは衒学的で謎が多く、プレイヤーを惑わせるように進行していきます。本作の舞台となるゾーンは奇怪で不思議な色彩で彩られていますが、しかしどこか整然とデザインされており、管理された箱庭の世界であることがプレイヤーに示唆されていきます。

ゾーンの各地に存在するモブの「エルセン」もまた、この世界が箱庭であることを言外に示しているようです。彼らはゾーンという箱庭を形作り、保全するために、「煙」「メタル」「肉」「プラスチック」といった4つの元素を、鉱山を掘り進めたり、畜牛を屠殺して生産しているのです(しかし一方で、牛を屠殺することで得られるのがメタルというのも、本作におけるエスプリの際立つポイントです)。

これら元素の生産は、プレイヤーのいる現実に起こるモダナイズと、それによる環境破壊を暗喩しているようにも解釈できるでしょう。エルセンたちは自分の仕事に妄信的に取り憑かれていますが、決して終わることのない労働にも疲れきっているようです。

この退廃的で疲労感に満ちた、ディストピア的とも言える世界観は、ゼロ年代の鬱屈とした空気を見事に書き表した思想家である、マーク・フィッシャー著の「資本主義リアリズム」を彷彿とさせます。

同書でマーク・フィッシャーは、成長し切ってなお肥大化と繁栄を夢見る、後期資本主義のもつ病理として、うつ病など、精神疾患の蔓延を挙げています。本作を実際にプレイし、エルセンたちと会話を交わしてみると、まさに彼らが世界にかりそめの繁栄をもたらすために、結果的にうつ病のような精神状態に陥っていることがわかるはずです。彼らは労働のために生き、そして労働によって延命処置的に生かされているのです。

彼らエルセンたちを統率し、搾取するガーディアンたちもまた、どうしてか偏執的にゾーンを守ろうとします。彼らはゾーンの(ある種現実逃避にも思える)“平和”を脅かす亡霊を消し去ろうとしますが、同時にわたしたちバッターに対しても、敵対心をあらわにします。亡霊はゾーンから見れば明らかに秩序をかき乱す災いですが、それらを滅するバッターにまで敵対するのは不思議です。ガーディアンたちは、バッターがまるでゾーンにとってのがん細胞(あるいは暴走した免疫機能?)であるかのように、彼を殺そうと試みるのです。

もしかすると、ガーディアンたちは亡霊の正体にうすうす気づいているのかもしれません。本作に登場する亡霊たちはユーモラスな外見やスキルをもちながら、その実どこか憂鬱な雰囲気をまとっています。またエルセンたちも、自身のストレスやトラウマを刺激されると、「バーント」と呼ばれる怪物に変化し、こちらへ襲いかかってくるのです。作中では、彼らが「どうしてこうなってしまったのか」ということは明確に説明されませんが、プレイヤーには何か心当たりが感じられてしまうのではないでしょうか。だからこそ、ガーディアンたちはバッターを殺そうとするのかもしれません。

そして実際ガーディアンを殺し、浄化されたゾーンを探索してみると、ゾーンを彩っていた色彩は消え、荒涼とした景色が広がります。そこにはガーディアンはおろか、搾取されていたエルセンたちも存在しません。バッターがゾーンを浄化することは、果たして“善い行い”だったのでしょうか? 解消することのできない、モヤモヤとしたしこりや澱のような違和感を、本作はプレイヤーに突きつけてきます。

リメイク作としては「もったいない」ゲームシステム

本作の戦闘は『FF4』のような、アクティブタイムバトルシステム(以下、ATB)を採用。バッターや、アドオンと呼ばれる精霊を仲間とした自パーティーと、敵モブの両方に行動のリソースとなるゲージが設定されています。ステータスに応じた速度によってそのゲージが溜まり、その順に攻撃やアイテム使用などの行動が行えるという訳です。また、一定確率でゲージの蓄積速度増加と、攻撃力アップが起きる「クリティカル」も発生。戦闘を有利に運ぶことができます。

また、戦闘システムは『FF4』よろしく、単純なターン制バトルに変更できる「ウェイト」のオプションも実装されており、伝統的なRPGを遊びたいプレイヤーにはこちらがおすすめです。

しかし、ATBが採用されていることに、いささかゲームとしての面白みを感じられない部分もありました。例えば、ゲージ速度が非常に高いモブが大量にポップした場合、プレイヤー側は甘んじてその連撃を受けなければなりません。対してプレイヤー側には、ゲージ速度を向上させるアイテムがほとんどなく、攻撃頻度では劣ってしまいます。もちろんそうしたモブの攻撃力は低く、ダメージレースにおいては拮抗するバランスに設計されているものの、単純に戦闘時間が伸びるため、ただ殴り合うだけではあまり楽しいバトルとは感じられません。

バッターの仲間となるアドオンというモブキャラ(?)のスキルによって敵の攻撃頻度を下げることもできますが、こちらは単独スキルであるため、結局デバフを敵全員に活用しようとするとターン数がかさみ、ジリ貧になってしまいます。アドオンには様々なスキルが用意されており、試してみるのも楽しくはあります。しかし戦闘を安定させる最適解を求めた場合、ただの殴り合いに収斂してしまう点が、RPGとしては残念に感じられました。

また、戦闘におけるストレスはATBだけではありません。本作はフィールド探索において、基本的にはランダムエンカウントを採用しています。こちらが本作の、パズル要素との食い合わせが非常に悪いのです。

本作では、ストーリーを進行させるために様々なパズルを解いていくこととなります。基本は、テンキー型のボタンを決まった順序にインタラクトするなど、難易度としては簡単な部類のものが多いです。しかし問題はその簡単さと、ヒントの煩雑さです。

先述した通り、本作のパズルは謎解きの必要もないような、ヒントさえ見つけてしまえばすぐ解けてしまうものや、あるいはヒントがなければ解読不可能な、非常に理不尽な難易度のもので構成されています。これだけでも謎解きを好むプレイヤーにとっては物足りないバランスとなっていますが、その難易度調整として、ヒントがフィールドに散りばめられているのが問題なのです。

プレイヤーはパズルを解くため、各フィールド内を行ったり来たりして、探索しなければなりません。しかしフィールドで見つけたヒントも、例えばボタンを押す順序をそのまま書いているなど、単純にひねりがなく、面白くはありません。つまり、同じフィールドをぐるぐると探索する「楽しみ」がないのです。

そして、そのフィールドを探索している間も、敵となる亡霊はランダムにプレイヤーに襲い掛かってきます。パズルを解く楽しみがさほどない中で、ランダムにマンネリ化した戦闘が挟まってしまう。プレイヤーの遊びのフローが固定されており、文字通り「作業」として処理できてしまうのが、リメイクされた本作の戦闘においてもったいないと感じられる部分でした。

リメイクによって、新たに生まれ変わったBGM

本作はリメイク版独自の要素として、新フィールドや隠しボスが追加され、さらにToby Foxをはじめとしたアーティストによる新録のBGMが収録されています。

なお、本作ではオリジナル版のBGMは未収録。既存ファンにとっては苦々しく思えるかもしれませんが、リメイク版をプレイしてみると、本作の新録BGMはオリジナル版の鬱屈としたトーンを引き継ぎつつ、確かに世界観を更新しているのが直感的に理解できるはずです。本レビューでは新フィールドのネタバレを控え、BGMの魅力について深掘りしていきましょう。

本作の新録BGMは、Toby Foxが全体的なディレクションを担当しています。Toby Foxは代表作である『UNDERTALE』の影響源として『OFF』を挙げており、この人選はまさしくピッタリと言えるでしょう。

オリジナル版を担当したAlias Conrad ColdwoodのBGMは、本作の退廃的な世界観を、ジャジーで享楽的なヒップホップビートで表現していました。ひび割れてヨレたビートの質感が、プレイヤーにどこか非現実的な空間にいるかのような感覚をもたらします。

比較して、本作にてリメイクされたBGMはどうなっているでしょうか。新録BGMでは、オリジナル版の持つ享楽的な雰囲気はそのままに、サウンドの質感が更新されています。ひび割れた質感はもちつつも、ビートはより踊りやすいようにリメイクされているのがわかるでしょう。つまり、より今の世代のプレイヤーが本作の世界に没入するための手助けとなっているのです。

また、戦闘BGM以外にも注目してみましょう。オリジナル版のフィールドBGMは静謐としており、神秘的な雰囲気を漂わせていましたが、リメイク版ではより重苦しい鬱屈としたビートを形作っています。こちらも、本作の持つ退廃的なムードを、サウンドによって十分に表しているのです。

総じて本作の新録BGMは、『OFF』というゲームの世界観をより強化し、モダナイズすることにも成功しています。オリジナル版をすでに遊んだことのあるプレイヤーも、リメイク版をプレイする価値のあるものとなっているでしょう。

なお、リメイク版BGMはFangamerの公式YouTubeにて全編が公開されています。リメイク版の雰囲気を一足先に味見できるものとなっていますので、気になる方は一聴してみるのもよいかもしれません。

総評

世代を超えてリメイクされた『OFF』は、確かにインディーゲーム史に残るカルト的作品であることが、今の世代にも十分に感じられるものとなっていました。しかし一方で、ユーザビリティの整理されていない部分が悪目立ちし、素直に作品を楽しむことができなかったのも事実です。歴史的な作品を「名作」だと身構えてプレイするのではなく、今の世代のインディーゲームと比較しつつ、肩肘張らずにゆったりとプレイしてみると、新たな発見があるかもしれません。

Game*Spark レビュー 『OFF』 Steam(PC)/ニンテンドースイッチ 2026年3月26日 インディー史に残る作品だが、ユーザビリティは更新されず GOOD 謎に満ちた魅力的なストーリー新録された、没入感を補強するBGMMortis Ghost氏による、クールなグラフィック BAD 戦闘システムはマンネリ化しがちパズル要素における難易度の落差が激しく、モチベーションを生まないUIにおいて整理されていない部分が目立つ

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