テンポの速いチーム制シューターゲーム「VALORANT」は、近年、新しく有望なAI研究の潮流を試す“実験場”となりつつある。テンセント傘下のライアットゲームズでこのゲームを開発するチームは、3DネイティブのAIモデルを使って新しいキャラクターやシーン、さらにはストーリーラインの試作を行なっているという。同社の取り組みに詳しい研究者が、匿名を条件に明らかにした。
テキストや画像、動画を生成できるAIモデルはこれまでにも数多く登場してきたが、テンセントの「Hunyuan(混元)」ファミリーのモデルは、3Dオブジェクトやインタラクティブなシーンを“想像し、生成する”ことができる点が際立っている。関係者によれば、これらのモデルはテンセントの別タイトル「GKART」の開発チームや、一部のインディーゲーム開発者たちも使用しているという。テンセントはこの件に関してコメントを控えている。
AIがもたらす制作フローの変化
「ゲーム産業には、莫大な投資が必要です」と情報提供者は語る。「以前はキャラクター1体をデザインするのに1カ月かかっていました。ですがいまでは、テキストを入力するだけで、Hunyuanがわずか60秒で4つの候補を提示してくれます」
この変化は、現実世界を立体的に理解して再現できるAIモデルが、ゲームデザインの標準要素になりつつある兆しでもある。こうしたモデルはゲーム制作にとどまらず、より高度なVR/AR体験を実現し、さらにはロボットが新しい行動を学ぶための基盤にもなり得る。
「物体を立体的に認識する技術の研究は、ここ数年で本当に爆発的に広がっています」と語るのは、3Dコンテンツ生成の新手法を研究するプリンストン大学大学院生、アレクサンダー・レイストリックだ。「コンテンツ制作や自動運転など、応用先は枚挙にいとまがありません。そしてARには、未解決の課題が山ほどあります」
レイストリックは、ゲームが3D対応のAIモデルの最も明白な応用先のひとつだと付け加える。「3Dメッシュ(3Dオブジェクトを表現する標準的な手法)の出力は、ゲーム開発の基本中の基本ですから」
もっとも、他の創作分野と同様に、AIを用いたゲーム制作には賛否がある。AIによる雇用喪失への懸念は根強く、AI生成コンテンツを含むゲームにはラベル表示を義務づけるべきだと主張する開発者もいる。一方で、「すでに広く浸透しており、止めるのは不可能だ」と指摘する声もある。
進化する3D生成AIの現在地
テンセントは7月、インタラクティブなゲームシーンを生成するモデル「HunyuanWorld 1.0」をリリースした。数か月前にわたしも試したところ、生成された鮮やかな世界は、まるでレゴ映画の一場面のようだった。ブロック状の谷が広がる世界を、自由に歩き回ることができる。現在は、より基本的な3Dオブジェクト生成モデル「Hunyuan 3D」を使い、3Dプリント用の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』オリジナルキャラクターをつくって遊んでいる。さらに10月にテンセントは、動画をアップロードすることで3Dシーンを生成できる新バージョンの「HunyuanWorld」も公開した。
テンセントのHunyuan 3Dは、AI研究全体で起きている、より大きな潮流を象徴している。多くの専門家は、AIが次の段階へ進むためには、物理世界へのより深い理解が不可欠だと考えている。そのため、3DネイティブなAIモデルを構築しているのはテンセントだけではない。マイクロソフト、メタ、Stability AI、バイトダンスも同様のモデルを発表しているが、特定の評価指標ではHunyuanが首位に立っている。
この分野ではスタートアップの動きも活発だ。現代AIの基礎を築いたスタンフォード大学のコンピュータ科学者フェイフェイ・リーが設立したWorld Labsは、一貫性と持続性を備えた3Dシーンを生成する「Marble」を開発している。即席のゲーム生成や、ロボット向けの信頼性の高い訓練データ作成への応用が期待されている。
