「インクリメンタルゲーム」の定義を巡る議論が熱を帯びている。ゲームジャンルの中でも“ひと際曖昧”なことも、そうした議論に拍車をかけているようだ。
インクリメンタルゲーム(incremental game)とは、クリッカーや放置ゲームなどの分類として主に海外ゲーマーコミュニティで用いられている言葉だ。ちなみにSteam上では、クリッカー(clicker)と放置ゲーム(idler)はSteam上で専用ページが用意されたタグであるのに対し、インクリメンタルゲームはタグとしては存在しない。
そうした背景もあってか、今回はあえてインクリメンタルゲームとして作品を分類する際に、どのような基準があるのかという疑問がRedditに投じられている。投稿されたのは、まさにインクリメンタルゲームについてのトピックを扱うコミュニティr/incremental_gamesだ。インクリメンタルゲームファンたちに、素朴な疑問をぶつけているわけだろう。
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「時間で増える」だけ?
投稿者のvkaike2氏はまずインクリメンタルゲームについて2つのタイプがあるのではないかとの考えを披露。片方を、限られた時間の中で資源を集め、その資源を用いてさらに多くの資源を集めたり、資源集めの時間をより多く得たりするゲームと定義している。ただその一方で、一般的な放置ゲームもインクリメンタルゲームと見なされることがあるといい、こちらのタイプではただ数字が増えていくシンプルなものから、RPG・都市建設・自動化要素を備えた奥深いものまでが含まれると考えているそうだ。
ただvkaike2氏は、こうした2つのタイプのゲームをインクリメンタルゲームとして定義すると、混乱を招くのではないかと問題提起。「incremental」、つまり数量や金額などが徐々に増加するといった言葉の意味を踏まえると“時間をかけて何かを向上させていく”というゲームを思い浮かべるが、このことが却って混乱を生じさせているとの持論を述べている。たとえばキャラクターを成長させるという点ではRPGもMMORPGもインクリメンタルゲームであり、拠点を拡張していくという点では工場自動化ゲーム『Factorio』もインクリメンタルゲームと言えてしまうと述べている。
そこでvkaike2氏は、インクリメンタルゲームとは何か、さらには放置ゲームとインクリメンタルゲームの違いはあるのかを問いかけている。スレッド内ではさまざまな意見が投じられているものの、多くは同氏を納得させられなかった模様。たとえばあるユーザーは「最初はシンプルな状態から始まり、時間をかけて新たな要素をアンロックしてスケールが拡大していくゲーム」と定義している。同氏は例として『A Dark Room』を挙げており、ひとつのボタンから始まり、さまざまな要素を調節する文明構築ゲームへと広がりを見せていく点がそうした定義に当てはまると考えているようだ。
ところがvkaike2氏はそうした定義に同意するとしつつも、完全には腑に落ちない様子。というのも同氏は「最初はシンプルな状態から始まり、時間をかけて新たな要素をアンロックしてスケールが拡大していく」のがインクリメンタルゲームであれば、ハクスラARPG『Path of Exile』やアクションゲーム『ロックマン』でさえ、インクリメンタルゲームの定義に含まれうると指摘。そうしたゲームがインクリメンタルゲームに含まれない理由を理解したいと述べている。
「ベルリン解釈」の応用
そんなvkaike2氏が納得を示したのは、ソフトウェア・ゲーム開発者のAnthony Lawn氏が個人ブログに記してきた「Guide to Incrementals」におけるインクリメンタルゲームの定義を考える記事だ。Lawn氏は記事の中で、ジャンルとは「社会的な概念(social constructs)」であると前置き。曖昧で時間と共に変化していくものであり、中でも「インクリメンタル」という言葉はゲームを定義する方法としてひどく曖昧であるとしている。“数字が増える”要素は何らかのかたちでほとんどのゲームが備えているとし、vkaike2氏のように、言葉の意味のとおりにジャンルを定義すればさまざまなゲームが該当するという考えのようだ。
またLawn氏はインクリメンタルゲームの定義として完璧な答えがあるとは思っておらず、自分が慣れ親しんだゲームに偏った定義になっているとも前置き。それでも同氏なりの考えとして、同氏がこれまでに見かけてきた一般的なアイデアに基づいてインクリメンタルゲームの定義をおこなっている。
まずLawn氏は、ジャンルの定義の曖昧さにおいて取り沙汰されやすい「ローグライク」について言及している。ローグライクとは、1980年リリースのダンジョン探索RPG『Rogue』がもつ要素を備える作品を示すゲームジャンル。特にローグライクとローグライトの違いといった文脈で話題にのぼりがちだが、ローグライクの厳密な定義のひとつとしては、2008年に開催されたInternational Roguelike Development Conferenceにて提示された「ベルリン解釈」がある。ベルリン解釈では『Rogue』を含む複数の作品を“正典”として、ランダムマップ生成、パーマデスといった複数種類のローグライクの要素が整理されていた(関連記事)。
Lawn氏はこのベルリン解釈について、そうした正典がもつローグライク要素を多く備えるゲームほど、より“ローグライクゲームらしい”と判断できる点に着目。特定の要素を備えていなくても、ほかの要素を多く備えていればいい点や、必要な要素の数が明確に決まっていない点などがジャンルという曖昧なものを定義する際に有用だと考えたようだ。そしてベルリン解釈の“戦略”はほかのジャンルにも適用可能という発想のもと、インクリメンタルゲームらしさを検討。あくまで最終決定版ではないとしつつも、同氏がインクリメンタルゲームの“正典”と考える作品群からベルリン解釈のような要素リストを作成している。
『(the) Gnorp Apologue』
なおLawn氏はインクリメンタルゲームの“正典”について、物議を醸すことを承知の上であるとし、さらに先述したようにあくまで同氏が慣れ親しんだゲームに偏った主観に基づいていることを前置きした。またジャンルが社会や時代とともに移り変わることを踏まえて、現代的な作品を優先的にピックアップ。幅広いタイプのインクリメンタルゲームを選べるように、それぞれのタイプを代表する「原型」となるような作品を選んでいるとのこと。作品としては『Dodecadragons』『Evolve Idle』『(the) Gnorp Apologue』『Idle Momentum』『Melvor Idle』『Stuck in Time』『Universal Paperclips』『Unnamed Space Idle』の8タイトルが選ばれた。
インクリメンタルゲームらしさ
そしてLawn氏はこれらのタイトルからインクリメンタルゲームらしい要素を抽出しており、備えていればインクリメンタルゲームらしさがより強まる要素を「高価値要素(High-Value Factors)」、まったく備えていなくてもよい要素を「低価値要素(Low-Value Factors)」と分類。高価値要素をすべてではなくとも複数もちあわせていればおそらくインクリメンタルゲームといえる一方で、低価値要素しかなければインクリメンタルゲームとはいえないだろうとのこと。
高価値要素としてはまず、「純UI表示」が挙げられている。これはゲームの状態をデータ駆動のインターフェースで表現する方式を指すという。ゲーム内に存在するものを視覚的に表現せず、“コントロールパネル”のようなインターフェースで数値・ボタンといったかたちで表示することを重視。たとえばアイテムアイコンや敵がシンプルな視覚的要素として表現されていても、プレイヤーの操作対象は世界観に則したグラフィックではなく、UI中心になっている場合にあてはまる要素として説明されている。
そのほか高価値要素としては、「プレイを誤っても影響が小さく、進まなくなるだけで失敗には陥らないこと」「管理すべき資源が多いこと」「何かを購入するための貯蓄を求められたり、どれかひとつしか選べない選択肢を提示されたりするなかで“最適化”していくこと」が挙げられている。いずれもインクリメンタルゲームとされる作品が備えていることが多い要素といえるだろう。
『Unnamed Space Idle』
一方で低価値要素としては「急速な数値成長」「自動化」「新しいもののアンロック・購入のための資源集めがプレイの動機になること」「プレイヤーが何もできない待つだけの時間があること」が挙げられている。これらもインクリメンタルゲームにありがちな要素ではあるものの、Lawn氏としては必ずしも備えている必要はない要素だと考えているようだ。
なおLawn氏は、しばしば同ジャンルのゲームを指す際に使われがちな「放置ゲーム」「クリッカーゲーム」といった呼び方を批判的に考えている様子。たとえばクリッカーゲームであれば開始時にクリックを連打して最終的にはその過程を自動化するといった風に、流れが“まったく同じ類のゲーム”を指すためにだけに使われていると指摘。クリッカーや放置ゲームと呼ぶよりは、包括的なインクリメンタルゲームという定義を用いる方が望ましいといった持論があるようだ。
Lawn氏自身が前置きしたようにこうしたインクリメンタルゲームの定義はあくまで同氏個人の見解ではあるものの、今回のRedditスレッドでは投稿者を含め同氏の考えを支持する意見が集まっている。いずれにせよ、Lawn氏が述べるようにゲームに限らずジャンルという概念は曖昧かつ流動的で、定義が難しいこともこうした議論がしばしば持ち上がる背景にあるのだろう。
なおたとえば先日にはBethesda Game Studiosのベテラン開発者が「RPGにはもはや単一の定義が存在しない」との考えを述べ、注目を集めていた(関連記事)。ジャンルの定義の難しさはゲーマーと開発者双方に共通する問題のようで、幅広く納得されやすい定義のためにはベルリン解釈のようにまず代表的な作品を定め、その上でどの程度そうした作品の特徴をもつかを見ていくという工程が必要になるのかもしれない。

