2026年3月9日から13日にかけて米国サンフランシスコで開催された世界最大規模のゲーム開発者会議「GDC 2026」。その数あるセッションの中でも、連日満員となるほどの熱気を帯びていたのが、3月11日に行われた「We Built the Wrong Games First: Failing Forward to ‘UG’, VR’s Fastest-Growing Game」である。
登壇したのは、Meta Questプラットフォームにおいてリリース初日から6ヶ月連続で収益1位を独走し続けている大ヒットVRゲーム『UG』の開発スタジオ、Continuum VR Studiosだ。CEOのスペンサー・クック、最高クリエイティブ責任者であり創設者のマイケル・マードック、そしてコミュニティマーケティングマネージャーを務めるカイル・シルズの3名が、生々しい開発の裏側を語った。
彼らが手がけた基本プレイ無料のソーシャルアドベンチャーVRゲーム『UG』は、リリースからわずか半年でゲーム業界の常識を覆す数々の記録を打ち立てている。7日間の継続率は70%を超え、1日の平均プレイ時間は65分以上、週平均で4時間、リリースからの累計プレイ時間は18時間に達する。また、レビュー数は30万件を超え、その平均評価は驚異の4.9星を維持。Discordのコミュニティ参加者数も21万5000人以上へと爆発的な成長を見せている。しかし、この華々しい成功は最初から約束されていたわけではなかった。
完璧なゲームが失敗する理由

Continuum VR Studiosが初期に開発していた数作品は、決して質の低いものではなかった。しかし、CEOのスペンサー・クックはそれを「間違ったゲーム」だったと率直に振り返る。従来のゲーム開発のセオリーに則り、洗練されたメカニクスや面白いシステムの構築に多大な労力を注いでいたにもかかわらず、プレイヤーは彼らのゲームに定着しなかったのだ。
「私たちは、洗練されたメカニクスや面白いシステム、巧妙なゲームプレイのアイデアに焦点を当てていました。私たちが素晴らしいと思う体験を作り上げ、実際に素晴らしい出来栄えであることも多かったのですが、ユーザーは私たちがこだわる部分には関心がありませんでした」とスペンサー・クックは語る。
彼らの初期のゲームでは、プレイヤーが試しに少しプレイすることはあっても、ゲームの世界に「住み着く」ことは決してなかった。巨大なコミュニティの形成も起こらず、初期の彼らはこの定着率の低さを「実行力」の問題だと誤認していたという。「より良いグラフィック、より深いゲームプレイシステム、そしてさらなるコンテンツの追加が必要なのではないかと考えました。基本プレイ無料のゲームにおいて、毎週のアップデートでさらにコンテンツを考え出すことは、不可能にさえ感じられました」
しかし時間が経つにつれ、問題の本質は「どのようにゲームを作るか」ではなく、「どのようなゲームを作るか」にあることに気づく。「VRはモバイルゲームでも、コンソールゲームでもありません。コントローラーを手に取り、より深く世界に没入するVRには、包み込まれるような感覚があります。プレイヤーが求めているものは、他のコンソールとは異なるのです。彼らは体を動かし、笑い合い、バーチャルな遊び場で友人たちと一緒に没入したいと考えているのです」
この事実に気づく決定的な契機となったのが、『Gorilla Tag』の存在だ。リリース当初の『Gorilla Tag』は視覚的にかなり粗削りなインディーゲームに見えたが、プレイヤーはそこで自らの楽しみを作り出していた。「最大の成功を収めているゲームは、必ずしも技術的・視覚的に最も優れているわけではありませんでした。成功しているゲームとは、プレイヤーが交流し、自分たちで楽しみを作り出せるゲームだったのです」
この気づきにより、開発チームは思考のパラダイムシフトを迎える。「『私たちが何を作りたいか』ではなく、『プレイヤーはどのような世界に住みたいのか』を問いかけるようになったのです」。コミュニティそのものが真の意味での「ゲームエンジン」となり、プレイヤーが文化を形成していく。この視点の転換こそが、のちの『UG』誕生の礎となったのである。
コミュニティを開発の推進力に
続いてマイクを握ったカイル・シルズは、コミュニティ運営とマーケティングの視点から『UG』の躍進を支えた舞台裏を明かした。彼はかつて『Gorilla Tag』や、Continuum VR Studiosの過去作『Monkey Doo』の実況動画を投稿するYouTubeチャンネル『YUMYUM』を運営していた経歴を持つ。その経験から得た「VRプレイヤーが本当に求めているもの」への洞察が、現在のマーケティングアプローチの核となっている。マーケティング担当でありながらゲーム開発にも深く関与する体制をとることで、ブレインストーミングにおいて絶大な効果を発揮しているという。
彼らはDiscordを主要なツールとして活用し、単なる発表の場にとどまらず、ベータテスターの組織化やクリエイタープログラムの運営を行った。しかし、Discordの運用は諸刃の剣でもある。「絶え間なく寄せられる個別の質問に答えていると生産的だと感じがちですが、実際にはより多くの人に影響を与えるシステムや自動化、イベントの改善に注力する方が、時間をより有効かつ効果的に使えることを私たちは学びました」とカイル・シルズは指摘する。
また、コミュニティの声を鵜呑みにする危険性についても言及した。「プレイヤーからのフィードバックは非常に重要ですが、必ずしも最も声の大きい意見が多数派であるとは限りません。そのため、プレイヤーが『求めていると言っているもの』と『実際に求めているもの』を区別する専門家である必要があります」。フィードバックに耳を傾けつつも、プレイヤーの実際の「行動」を最も信頼すべきだというのだ。
さらに、クリエイターを初期段階から巻き込むことの重要性も強調された。「私たちの目標はクリエイターを支援し、彼らに成功の機会を提供することでした。なぜなら、彼らが成功すれば私たちも成功するからです」。月に一度、Discordのボイスチャットにクリエイターを集め、動画を一緒に視聴しながら実践的なフィードバックを共有するプログラムを開催し、動画のパフォーマンスだけでなく創造性や一貫性を評価する体制を整えた。
一方で、SNS戦略においては大きな挫折も経験している。当初、彼らはVR空間で成功を収めていた『Animal Company』の熱量の高い動画スタイルを模倣した。しかし、YouTubeでの再生回数は1000回に満たず、TikTokではさらに悲惨な結果に終わった。「『Animal Company』の雰囲気作りは非常に上手かったのですが、それは私たちには機能しませんでした。成功している戦略がすべてのゲームに当てはまるわけではないという、重要な教訓を得ました」
その後、他社の模倣をやめ、構造化された導入アプローチと多くの馬鹿馬鹿しい要素を散りばめた独自のコンテンツスタイルを確立した結果、広告費を一切かけずにYouTubeで平均40万回再生を達成するに至った。「多くの労力を注ぎ込んだものをバラバラにし、何度も作り直すのは苦痛を伴いますが、素早く方向転換(ピボット)できる能力こそが私たちの強みの一つでした」と彼は振り返る。すべての動画や台本に明確な目的を持たせる泥臭いリサーチが、圧倒的なエンゲージメントを生み出したのである。
80/20の法則と協力プレイ

ゲームデザイナー兼ディレクターのマイケル・マードックは、『UG』を成功に導いたゲームデザインの具体的な要因について解説した。その根幹にあるのが「80/20の法則」である。
「基本的には、確実に機能するとわかっているものを80%使用し、残りの20%だけを革新的なものにしようという考え方です」とマイケル・マードックは説明する。例えば、『Gorilla Tag』が確立したVRにおける画期的な移動システムや、『Yeeps』が大成功を収めたマネタイズ手法、さらに『Animal Company』のソーシャルゲームのループといった「すでに証明されている要素」を80%取り入れた。そこに独自の「卵のショップ」や恐竜に乗るシステムといった20%の革新を加えることで、開発の摩擦を極限まで減らしつつ、プレイヤーにとって親しみやすく新鮮さを保つ体験を実現したのである。
さらに重要なのが「協力の強化」というアプローチだ。過去作『Monkey Doo』において、「サルのように登ってフンを投げる」というシステムがプレイヤー間に侵略的な対立を生み、コミュニティに有毒性(トキシシティ)を蔓延させてしまった苦い反省があった。
その経験を踏まえ、『UG』では「1人のプレイヤーが勝つと、実質的にすべてのプレイヤーが勝つようなゲーム構造」を徹底した。その象徴が『Anubisaurus』という恐竜の存在である。新規プレイヤーが最初に必ず手にするこの恐竜には20種類のバリエーションが存在するが、2体目以降を入手する手段は「他のプレイヤーとのトレード」しか用意されていない。
これにより、ベテランプレイヤーは苦労して手に入れた『Magmodon』などの高レベルな恐竜を手放してでも、コレクション完成のために新規プレイヤーと接触するインセンティブが即座に生まれる。「よく見られるのが、経験豊富なプレイヤーが、卵をニワトリにぶつけて孵化させる方法や、巣の中で卵を温める方法などを新規プレイヤーに教える光景です。彼らは新規プレイヤーがどの『Anubisaurus』を手に入れるかを見守り、それが自分が探しているバリエーションであればトレードを申し込むのです」とマイケル・マードックは語る。PvPが中心になりがちな市場において、この平和的で協力的なループはコミュニティに劇的な好影響を与え、ベテランと初心者の垣根を取り払うことに成功した。
遊び場の自由とピボットの力
プレイヤーを惹きつけてやまないもう一つの大きな要因が「バーチャルな遊び場における自由」である。開発陣は、ルールや制約を極力排除し、プレイヤー自身に当事者意識を持たせ、遊び方を委ねる方針を貫いている。
最近のアップデートで追加された『March Madness』のイベントがその最たる成功例だ。「以前の私たちであれば、タイマー付きのスコアボードシステムを作り、ボールが枠外に出たらリセットされるようなルールや構造をすべて実装していたでしょう。しかし今回は、既存の武器である岩のスキンを変更して少し弾みやすくし、当たり判定のあるコートを追加しただけです。『ボールを投げれば楽しいよ』と文字通りただポンと置いたのです」
結果として、モデラーがわずか10分で作ったこの「何も制限がないコート」はプレイヤーの創造性を大いに刺激し、開発陣の想像を絶するような独自のミニゲームが次々と誕生することになった。「開発者が権力者や『風紀委員』のように振る舞えば振る舞うほど、彼らはゲームをプレイしたくなくなるのです。彼らは自分たちが望む方法で、友達と一緒に遊びたいと考えています」という言葉は、ソーシャルVRの真髄を突いている。一方で、自由に伴うリスクを管理するための安全策として、非侵入的な音声モデレーションシステムであるボイスコントロールを導入し、コミュニティの保護にも万全を期している。
さらに彼は、映画『ジュラシックパーク』に登場する「カオス理論」を引き合いに出し、VR業界の予測不可能性について言及した。「中国で蝶が羽ばたくとニューヨークの天気が完全に変わってしまうように、複雑なシステムは本質的に完全に予測不可能です。1本のバイラル動画でゲームが大ヒットすることもあります。全容を把握するのは非常に困難です」
このカオスな環境を生き抜くための最大の解決策が「方向転換(ピボット)する力」である。コミュニティからのリアルタイムなフィードバックを受け取り、コアな原則を維持しながらも迅速かつ決定的な変更を加え続ける。それこそが『UG』がトップの座を維持し続けている絶対的な理由なのだ。
前向きな失敗が成功を生む
セッションの締めくくりとして再びスペンサー・クックがマイクを握り、洗練された技術や複雑なシステムよりも「プレイヤーの感情」にフォーカスすることの重要性を改めて説いた。
「プレイヤーはシステムがどれほど複雑かなど気にしていません。彼らが気にするのは『そのゲームでどう感じるか』です。楽しいか? 理解しやすいか? すぐに友達を呼んで『これ一緒にやろうよ』と言いたくなるか? もしそうなら、それは成功です。もし答えが『ノー』なら、どれだけコンテンツを追加しても意味がないこともあります」
そして、これまでの幾多の失敗が決して無駄ではなかったことを強調した。「作るプロトタイプ一つひとつが何かを教えてくれます。『失敗したプロトタイプ』は存在しません。すべての実験が最終製品へとあなたを近づけます。多くの場合、最終的に成功を収めるスタジオは、最初から完璧なものを作ったスタジオではありません。彼らはただ『前向きに失敗(フェイル・フォワード)』しただけなのです」
質疑応答では、従来のゲーム開発における「洗練(ポリッシュ)」の必要性についての質問が飛んだ。これに対し開発陣は、「意図的な粗さ(purposeful jank)」という独自の概念を提示した。「幸いなことに、子供たちはVRゲームにフォトリアルな表現を期待していません。一貫性があり、予想通りの動きをするのであれば、ゲームの感触や見た目が少し粗削りでも構わないのです」と回答し、VRにおいてはローポリゴンの表現が非常にうまく機能すると断言した。
また、無数に寄せられる要望の取捨選択とデータ分析の重要性についても深く踏み込んだ。「プレイヤーが最も本音を示すのは『お金』と『時間』の使い方です。もし彼らが『もっと無料アイテムをくれ』と言いながら実際には課金しているのなら、無料アイテムを増やすべきではないかもしれません。『このゲームループは気に入らない』と言いながらもプレイ時間が増加しているのなら、彼らは本当はそれを気に入っているのです」とスペンサー・クックは分析の核心を語る。
「全体でたった10人からの要望を何度も聞かされるようなことは、非常によく起こります。ですから、『きしむ車輪(声の大きい意見)』にだけ油を注ぐようなアプローチは絶対にとるべきではありません。もっと分析データに基づいた判断が必要です」
プロフェッショナルとしての決断の例として、プレイヤーから常に寄せられるPvP実装の要望を挙げた。「彼らはただ『今すぐ友達をぶっ飛ばしたい』と言っているだけです。それがその瞬間は楽しいだろうと私たちもわかっていますが、マップの向こう側まで吹っ飛ばされる側にとっては面白くありませんよね」と述べ、ゲームの根本的なビジョンに反するため導入を見送るというプロとしての毅然とした態度を示した。
「間違ったゲーム」を作ることを恐れず、コミュニティの声に耳を傾けながらもデータに基づいた冷静な判断を下し、素早く柔軟に適応していく。『UG』の驚異的な大ヒットの裏には、失敗を恐れずに挑戦し、そこから愚直に学び続ける開発者たちの「前向きな失敗」の哲学が貫かれていた。
特別ウェビナー「GDC 2026 報告会」3月19日開催
3月19日(木)、MyDearest株式会社はゲーム業界の最新動向を徹底解説する「GDC 2026 報告会」を開催します。「GDC」は、世界最大級のゲーム開発者会議「Game Developers Conference」の略称で、毎年サンフランシスコで開催されるゲーム業界の国際イベントです。GDCでは、最先端のゲームエンジンやツール、さらにはXRやメタバース、生成AIに関する技術や事例が紹介され、世界中の開発者が集い、最新の知見を共有しています。
今回の報告会は、GDC現地の熱気と貴重な情報をそのままお届けするため、現地参加した久保田 瞬(Mogura VR 編集長)が登壇。現場で得た知識や、ここでしか聞けない裏話、そして最新トレンドを存分にレポートします。
ウェビナーへの参加はこちら:https://2026.peatix.com/view

